誰も次の監督になりたがらない
やがて体のキレが徐々になくなり、投手は打たれ、打者は凡打の山を築いていく。気づけば、それまで維持していた順位よりさらに落ちていき、Aクラスをキープどころか、あっけなくBクラスまで順位を落としてしまう――という負のスパイラルが続くのだ。悪いのは現場を預かる首脳陣ではなく、早々と監督の続投宣言をするオーナーと、その声に安心してゆるんでしまう選手たちになる。
ただし、この流れは阪神が阪神であり続けるかぎり永遠に断ち切ることのない流れになるはずだと、私は冷静に見ている。そうなると、心配なのは「この先、監督のなり手になる人材を探すのは難しいのではないか」ということだ。
就任したときには阪神ファンから大きな声援を浴び、退任する間際には一転してボロカスに言われる。過去をたどれば、ブレイザーや安藤さんのようにカミソリやゴキブリの死骸が入った手紙が自宅に届くことを考えれば、「いまの安定した生活を手放して監督をやる気はない」と考える阪神OBが大勢いたって不思議な話ではない。いまの岡田監督しかりだ。
仮に成績が落ちて失脚するとなったら、「次は誰が監督になるの?」ということになりかねない。火中の栗を拾うのはリスクがいるが、大火事のように燃え広がった炎のなかの栗を拾う者など誰もいないはずだ。
だからこそ、あえて言いたいのだが、いっぺん阪神ファンは「お家騒動が起こるメカニズム」を冷静に分析してみる必要があるのではないだろうか。
「阪神の上層部はアホちゃいますか?」
大阪で行きつけの店で食事をしていると、ファンに握手やサインを求められる。例の辞め方で阪神を去った私だったが、ファンからの温かい声は本当にありがたいと思っている。30年ほど前、仕事で大阪に行ったとき、移動中のタクシーの運転手さんが、こんなことを私に聞いてきた。
「阪神の上層部はアホちゃいますか?」
聞けば、どんなに弱くてもオフになったら補強らしい補強をほとんどせず、前年と変わらないメンツで戦おうとしている阪神に対して不満が鬱積しているのだと言う。
「こんなありさまじゃ、巨人にはどうあがいたって勝てないでしょう」というわけだ。たしかに、これには一理あるが、こうしたファンの声が上がる原因のひとつに挙げられるのは、1984年から2004年まで在任した久万オーナーの責任が大きい。