話し手の「意見を加工」する能力が問われている 

その際に重要なのが観察力です。自分らしさや、自分の意見の見せ方に配慮するためには、自分の立場をわきまえ、相手の反応の予測を前提として、どのように意見を加工するかの能力が問われるのです。こうした「見せ方」について具体的に考えてみましょう。

たとえば、あなたが母校の小学校から「子どもたちに『本を読むことの楽しさ』を伝えてほしい」と、全校児童の前で15分ほどの講演を頼まれたとしましょう。人前で話をすることに慣れているかいないかは関係なく、卒業生として、全校児童の前で15分ほど講演をすることになった場面を想像しながら考えてみましょう。さて、その講演を成功させるために観察力をフル稼働させるとして、あなたはどのような準備をしたらいいと思いますか?

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講演の目的や目標を考えることはもちろんですが、講演の成功の鍵となるのは、講演を聞く相手と状況について観察(推察)し、想像力から得られる情報を活用することです。

●子どもたちの人数や属性
●子どもたちの読書環境と実態
●子どもたちの興味関心のレベル
●子どもたちの家庭環境
●教員たちの思惑
●子どもたちが家に帰ってから保護者に話す場面

このような情報から考えられることとして、仮に人数が少ない学校で講演するのであれば、肩を寄せ合って座る形式にしようと決めることができます。そして、そのような形式であれば児童たちとの距離が近いため、清潔感があって、動きやすいファッションを選ぼうといった準備ができます。

「親に本を買ってもらいましょう」と聞くのはNG 

また、読書が習慣化されている学校の児童と、そうではない環境にいる児童では、読書の捉え方が違います。講演をする学校の児童がどのような環境にいるかを知っていれば、取り上げる本の難易度や、知名度、話題性などをどのように設定するかを調節できるでしょう。

同時に、現代の貧困家庭問題は、深刻かつデリケートに扱う配慮が求められますので、貧困家庭の児童がいるという情報があれば、「まずは次の土曜日に本屋さんへ行って、お父さんとお母さんに、本を買ってもらいましょう!」などとは発言すべきではないでしょう。

どの家庭にも、子どもには両親がいて、土曜日であれば、書店に連れて行けるはずという思い込みを外すことができれば、親がいない家庭もあることに気づき、経済的に本を買えない環境下の子どもを傷つけたり、孤立させてしまうような可能性のある言葉を避けることができるのです。

さらには、中学受験をする児童の有無と、人数の比率(多いのか、少ないのか)、あるいは児童の保護者の職業が漁業や農業か、都心で働く人が多いのかなどによっても、子どもたちの将来に対する社会の見方は変わります。そうした状況に合わせて、どのように講演内容を落とし込んでいくのか、話の構成や表現の工夫が必要となります。