テレビ業界という“村社会”から出ようとしない
また、別のテレビ局幹部は話す。「在京キー局のなかで後発局であっただけに、当社はなりふり構わずにジャニーズ事務所に迎合しないと視聴率を稼げなかった。ある種の宿痾と言っていい。今回の性加害問題を機に、本当は内部から会社は変わらなければならないのだろう。宿痾をいつまでもそのままにしてはいけないから。
しかし、変わることなんてできない。ネットビジネスに遅れてしまい必死になっている部局はある。が、新しいものには一定の拒絶感があり、何よりもテレビ業界という村社会から外に出ていくという気概にはみんな乏しい。自分を含めて。だから私たちは変われない」
ジャニー喜多川氏の性加害については週刊文春がこれまでも報じてきたものの、黙殺されたまま広がりを見せなかった。ところが、今年3月に英BBCが1時間の番組として放送したことが、広がるきっかけとなる。BBCは“黒船”であり、外圧によってついに実態が表に出たのだ。
変化は安定を喪失させる。長期的なほど安定は捨てがたい。しかし、重大問題が発生しても、村内で解決できた時代は去った。「臭いものには蓋」はもう通用しない。世界の常識に、村の常識を合わせていく必要に迫られている。
世界は日本企業の動向を見ている
米の大物映画プロデューサーだったハーベイ・ワインスタインによる性加害が報じられたのは2017年。すると、それまでの名声も実績も一夜にして崩れ彼は映画界から追放されてしまう。弟と作った会社も破綻してしまう。性暴力を受けた女性たちが声を上げる「#MeToo」運動が、巻き起こるきっかけにもなった。
アサヒをはじめグローバルに展開する日本企業は、こうした事象といつも対峙している。テレビ局や芸能プロダクションも、事件を熟知していたのだろうが、“対岸の火事”と多くは受けとめているのかもしれない。
権力を有した者が、道徳や法律、社会規範を超えて自身の欲望を優先する行動を起こしたなら、洋の東西を問わずに性加害やハラスメントは発生しうる。「#MeToo」運動により、ハリウッドでは女性監督や有色人種の監督が、メガホンをとる機会が増えた。作品のヒット以前に、ダイバーシティが進んだのは間違いない。
日本企業とテレビ局、ジャニーズ事務所との攻防は、これからも当分続くだろう。世界が見ている。各社はそれぞれに、どう決断して行動をとるのか。