海外事業は売り上げ比率の半分を占めるまでに

ここが、総務省の監督のもとに、事業のほとんどを国内だけで展開しているテレビ局とは見方が異なる点だ。グローバルな視座よりも、自分たちの都合を優先している。「タレントに罪はない」ので現状を維持する、とする局はある。これに対し、「CM契約は事務所と交わしているわけで、タレント個人と結んでいるわけではない」(ジャニーズ所属タレントの広告起用をやめた日本のグローバル企業)と反論する。

アサヒは2010年代に世界でM&A(企業の合併買収)を繰り返し、欧州や豪州のビール会社を傘下に収めた。この結果、2022年末で海外売り上げ比率は約52%となり5割を超え、海外事業がより重要になっているのだ。2016年に西欧で約2900億円、2017年に中東欧で約8700億円を投じて複数のビール会社を買収。

さらに2020年には豪州でも、約1兆1400億円で豪州最大手のビール会社「カールトン&ユナイテッド・ブリュワリーズ(CUB)」を買収した。これらはみな、ビール世界最大手の「アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)」(本社はベルギー)から買ったものだが、CUB買収を担ったのが勝木氏だった。

苦難の時代を経て多様な人材が揃った

もともとは、子会社のニッカウヰスキー出身の勝木氏は、豪州で投資ファンドを相手に訴訟を起こして約201億円の和解金を14年に勝ち取った経験も持つ。「泣き寝入りをせずに、断固として戦った。国際社会で筋を通しました」と勝木氏は筆者に話してくれた。

事業会社であるアサヒビールの松山一雄社長も、鹿島建設やサトーで海外勤務をした後、サラリーマンを辞して米大学院に自費留学しMBA(経営学修士号)を取得。P&Gなどに勤務後、58歳でアサヒに途中入社した経歴だ。同じくニッカウヰスキーの爲定ためさだ一智社長はメルボルンに駐在し、アサヒグループの豪州事業を指揮した経験を持つ。

世界を知る人が経営陣にそろっているがそれだけではない。「アサヒはダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括)、さらにエクイティ(公正)な会社を目指している」(幹部)という。ビール商戦が激化した90年代後半、破綻した銀行や証券会社などから積極的な中途採用を実行。

この結果、「自然とダイバーシティの文化が醸成された。そしていま、子会社出身の勝木さんや転職してきた松山さんがトップにいる」(同)という企業体質でもある。もっとも、「女性の登用などでは、まだ遅れている」(別のアサヒ幹部)という声は歴然とあるのだが。