「40代では産めない」という誤解を解く

多くの「早く産め」論者は、「加齢により正常に出産できる割合が低くなる」と言います。でも、実際、40代だとどのくらいの希望者が出産までにたどりつけるか、という具体的な数字はあまり見かけません。せいぜい、1回当たりの「体外受精から生まれる確率」を上げるのが関の山なのですが、これにも大きな問題があります。

まず、40代でも体外受精ではなく自然妊娠している人のほうが圧倒的に多いこと。次に、こうした「体外受精からの出産確率」には、途中で自然妊娠したため治療をやめた人が含まれていないこと。さらに、これはあくまで1回当たりの確率でしかなく、それを繰り返すことでトータルで何%になったか、が曖昧です。

これら問題があるデータにもかかわらず、いたずらに低い数字により必要以上に悲観的にさせているのが、現在の「早く産め」論ではないでしょうか。

連載第13回で複数の論文からこうした話の大本にある「年齢別妊孕力(子どもを産む力)」について示しました。再掲すると以下の通りです。

・女性の妊孕率は、年齢とともに低下するが、30歳を100とした場合、40代前半では70~75程度への低下でしかない。30歳での出産確率は9割だとすると、40代前半では65%内外の出産確率となる。
​この話を裏付けるように、大正~昭和戦前期の女性は、40代を通した出生率が0.4程度ありました。それも、35歳以上の晩婚者(つまり初産割合が高い層)で出生率は高くなっています(多産が出生率を上げたのだろう、という類推への反証です)。

・上記妊孕率はあくまでも「自然妊娠」の場合だ。現状、不妊治療により40代前半でも50~60%の人が子供を持てている。とすると、不妊治療まで含めた40代前半の妊孕力は、85~90%になる。

対して、直近の40代女性の出生率は0.06と著しく低い状況です。この数字は大正期以上に上げられる余地があるでしょう。

 

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不妊傾向を早く知り、対策を打つ

それでも、40代だと産めない可能性が高まるのは確かです。ただ加齢による妊孕力の低下は、全員一律に起きるものではなく、早期から不妊症傾向にある女性が大きく妊娠・出産確率を下げ、それ以外の人はそうでもない、という傾向が見て取れます。

だとすると、若年時に「自分は不妊傾向にあるかどうか」をチェックし、もしそうなら、卵子凍結などの対策を考えるのが得策ではないでしょうか。

現在まだ、自身の不妊傾向を予測できる検査は普及しておりませんが、こちらも連載16回に書いた通り、新たな手法は次々と開発されつつあります。政府は、この方面の研究・開発・普及に、ぜひ力を注いでほしいところです。

そして、不妊傾向が見られた人には、卵子凍結の保険診療を可能にしたり、助成金を支給するのも一案となるでしょう。

もちろん、不妊傾向を知る検査は義務化などせず、希望者のみを対象とすべきです。そして、女性だけでなく、男性も同様の検査を受けられるようにするのが公平でしょう。