1年生の頃は伏し目がちだった子が、前を見るようになる

【白井】もう半分、終わっているじゃないですか。

【内田】そうです。僕がいた大学では入学してすぐの基礎ゼミから2年間ずっと僕のゼミを履修する学生がけっこういました。その子たちはそのまま3年生になって僕の専攻ゼミに入ってくる。だから、1年生からの経年変化がよくわかる。1年生の頃は、腕を組んで、伏し目がちに座っていた子たちが、まっすぐ前を見て座るようになる。ニットキャップを目深にかぶって目を隠していた子がある日キャップを脱ぐようになる。そうやってしだいに胸襟を開いて話し出す。この子はこんな声だったのかということを入学して2年経って初めて知る。

【白井】はい、姿勢の悪さ、眼差しの無力感、気になりますよね。心理状態が身体の挙措にまで現れている。結局、自己防衛なんですよね。

【内田】中等教育で相当痛めつけられてきたんだなという感じがします。

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「何かを主張する」ことのハードルが高い

【白井】いまのお話はとても参考になります。まずはコチコチになっている心と身体をほぐさなければならない。

私も大学で基礎ゼミをもたされてレポートの書き方の指導なんかをしなければならないのですが、これがなかなか難物だと感じてきました。「書きたいことを書けばいいんだよ」などと身も蓋もないことをつい言ってしまうのですが、実際自分は「書きたいことを書く」ことしかしてこなかったんで、それ以外言うことがない。主張のない論文はつまらないですから。

しかしどうやら、問題は「書きたいことを書く」以前のマインドセットにあったようですね。「書きたいことを書く」とは、要するに何かを主張することです。だから私の指導は、「何かを主張しなさい」という命題に約言されるわけです。しかし、「言いたいことを言う」「何かを主張する」という行為が、いまの若者たちにとってとてもハードルが高いというか、前代未聞の課題として現れてしまうわけですね。「え!? そんなことしていいのか?」と。この戸惑いを解いていくところから始めなければならないんですね。

これが解けないで、ある時ぱんっと弾けてしまうと……。

【内田】精神疾患のようなかたちで発症する子もいるだろうし、暴力衝動のようなかたちで出る子もいるだろうし、出方はいろいろあると思います。