京都都心部では30年で4分の1の雇用が失われている
観光業は、観光地の自然や魅力ある景観や歴史といった地域公共財の吸引力にただ乗りすることで潜在的な超過利益を得る。結果的に観光関連で超過利益を目指す参入が進むことで他の産業は圧迫、抑制されるが、このメカニズムは特に土地利用の歪みによって顕在化する。それでも活発な参入は集積の利益をもたらすことで生産性の上昇と成長の源泉となりうる。
この章では、京都の食、特に京料理に注目して、集積の利益が見られることを主張した。しかし、恐らくこのような集積の利益は他の観光関連産業では一般的ではなく、近年の高級ホテルの参入に見られるように、地域公共財の囲い込みの傾向が一般化すれば、競争は抑圧され、京都固有の景観や美しささえ一部の観光客にしか経験できないものになりかねない。
レントの優越という京都の近代を覆った影は、観光業にも忍び寄っている。観光業の成長だけが原因とはいえないものの、厳しい景観保護政策の影響もあり、都心の土地利用は特に大きな影響を受け、オフィスビルの建設は進まず、2007年の新景観政策の開始以降は都心でのマンション建設も激減した。市内での雇用は減少を続け、過去30年間で2割近く減少、都心部では4分の1の雇用が失われた。
京都の魅力を観光以外にも利用すべき
本章を終える前に、観光地としての京都の魅力が、観光以外の産業にも影響を与えうることに触れたい。第5章とその付論では、現代の大都市の多くが消費者都市であること、つまりその集積の最も重要な特徴が、大都市でしか経験できない様々な消費行動、特に個人向けサービスの利用可能性であることを見た。そして、それと並んで、都市生活の魅力こそが都市の吸引力の根本にあることを見た。
京都は、このような意味での消費者都市ではない。しかし、それと同時に京都は常に「住んでみたい町」として最上位にランクされることも確かであり、恐らくは京都をそのような地位に押し上げている最大の理由は、京都の景観や文化が提供する他の都市とは異なる雰囲気、魅力である。
この魅力は観光以外にも利用可能である。京都の大学都市としての姿を顧みれば、少なからぬ部分が、観光地としての魅力と通底する古都に対するあこがれが、京都の大学の魅力であることを否定することは出来ない。
それが京都での就職に繋がっていないのは、それが就職する際に重要でないからではなく、そのような潜在的可能性を実際の就業行動に繋げることが出来ていないためではないだろうか?
京都は優れた景観や都市としての魅力を専ら観光業のみに供することで、その価値を無駄遣いしているともいえる。これを京都に立地する新たな企業やオフィスあるいは研究組織に特権的に利用してもらうくらいの考えがあっても良いのではないか? 歴史的町並みを宿泊施設に提供するのではなく、職住一体の新しいタイプの低層のオフィススペースに置き換えることも可能なのである。