「妊娠を告げたら仕事を切られた」と横行するマタハラ

そんな公助の不足は、ハラスメント防止策の弱さにもつながる。2019年、日本マスコミ文化情報労組会議フリーランス連絡会や日本俳優連合、フリーランス協会などが行ったフリーランスへのハラスメント共同実態調査では、自由記述欄に「妊娠を告げたら仕事を切られ代行者を用意するよう言われた」(スポーツインストラクター)、「仕事をしたいなら妊娠するなと言われた」(プロデューサー)など、多数のマタハラが報告された。また、回答者の3割がセクハラ被害を訴え、なかにはレイプ被害もあった。

にもかかわらず、マタハラを規制する育児介護休業法などは労働者が対象であり、また2020年6月から施行されたハラスメント防止関連法によるセクハラの規制強化でも、フリーランスは「配慮が望ましい」という指針にとどまった。

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過酷なフリーランスという働き方を政府は保護できるか

コロナ禍は、フリーランスの過酷さを浮かび上がらせた。批判のなかで、2021年9月からは建設関係の一人親方などに対する労災保険の「特別加入」の対象が、ウーバーイーツのような宅配を含む一部のフリーランスにも拡大された。特別加入の保険料は、「労働者」と異なり自費負担であるため、低収入のフリーランスから、加入は負担が重すぎるとの批判も出ている。とはいえ、「保障までフリー」の状態に、政府も何らかの手を打たざるを得なかった動きとして注目される。

竹信三恵子『女性不況サバイバル』(岩波新書)

2021年11月8日、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」はようやく、「緊急提言」に「コロナ禍では、フリーランスの方々に大きな影響が生じている。フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者がフリーランスと契約する際の、契約の明確化や禁止行為の明定など、フリーランス保護のための新法を早期に国会に提出する」という内容を盛り込み、2023年4月、「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が成立した。

自身もフリーランスの編集者で、「出版ネッツ」(出版関連のユニオン、正式名称はユニオン出版ネットワーク)執行委員としてエイコの裁判を支えてきた杉村和美は判決が出た当時、「セクハラやマタハラの防止措置などは、どの雇用形態の女性にも必要。『緊急提言』にあるような自営業としての契約の明確化だけでなく、働き続けるためには最低限必要な保護措置を、フリーランスにも広げてほしい」と語った。コロナ禍の下で噴出した「自由な働き方」をめぐる女性たちの体験と異議申し立てが一つの束となって、「自由な働き方」に安心を求める動きが加速し始めている。

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