県専門部会委員が唱えた「新たなリスク」

もう1つ、川勝知事がツバクロ残土置き場を不適格の根拠に挙げたのが、地質を専門にする塩坂邦雄・県リニア専門部会委員の見解である。

8月12日公開のプレジデントオンライン(これでは地震大国・日本では何も造れない…無意味な「タラレバ」でリニア妨害を続ける川勝知事のデタラメ)で、塩坂氏の指摘についての問題点を明らかにした。

筆者撮影
8月3日開催の静岡県地質構造・水資源専門部会(=静岡県庁)

塩坂氏は8月3日の県専門部会で、「地震や豪雨により大規模な土石流等が発生し、ツバクロ残土置き場の周辺で天然ダム(河道閉塞へいそく)ができるおそれがあり、この天然ダムが崩壊した場合、ツバクロ残土置き場の盛り土が侵食され、下流側に影響を及ぼすリスク」を唱えた。

「広域的な複合リスク」として、同時に多発的な土石流等の発生するリスク、対岸の河岸侵食による斜面崩壊の発生リスクまで課題として、JR東海に対策等を検討する必要があるなどとも述べた。

塩坂氏の言う「下流側に影響を及ぼすリスク」の「下流側」とは、4、5キロ離れた椹島さわらじま周辺を指している。

南アルプス登山基地の椹島周辺は集落などから遠く離れた山間にあり、人家などは全くない。そこからさらに約10キロ離れた下流には中部電力の畑薙第1ダムがある。

万が一、残土置き場が崩壊するような事態になったとしても、土石流等は最悪でも畑薙第1ダムでせき止められる。

つまり、「下流側の影響」と言っても、人的被害や建物損壊などは全く想定されないのだ。

残土置き場を造るから深層崩壊が起きるわけではない

この問題点を踏まえ、NHKの女性記者は知事会見で、「ツバクロ残土置き場でのリスクは何か」とダイレクトに質問した。

川勝知事は「すぐ上のほうに上千枚岳があって、そこに今まで、複数回の深層崩壊があった。それによって、あそこのいわゆる燕沢ができている。そこに樹木が生えていないのは、深層崩壊の後で、そこは段丘状になっているのは、天然ダムのようなものが造られて、それが段々削っていて段丘状になっている。そういうことを前提にして、残土置き場を考えたのかっていう議論がいくつかのところから出ている」などと説明。「リスク」とは単に深層崩壊が起きることだと回答した。

これは地質を専門にする塩坂氏の見解に同調しただけで、静岡県行政のトップとしての見解ではなかった。

だがこれは事実を無視したデタラメな回答だ。なぜなら、深層崩壊は、JR東海が燕沢上流側に残土置き場を造ることによって起こるものではないからだ。