米キャタピラーは「想定した以上に深刻」
建設機械の分野でも中国事業の見直しが急ピッチで進みつつあるようだ。リーマンショック後、米キャタピラーは中国で油圧ショベルなどの生産能力を増強した。道路や鉄道などのインフラやマンションの建設などは増え、建機の需要が拡大するとの期待は急上昇した。
しかし、今年8月上旬、同社は中国の需要減少は想定した以上に深刻との見方を示した。キャタピラーがコストの圧縮を目指して中国の生産能力の削減に取り組む可能性は高まっている。わが国では、コベルコが中国の生産能力を引き下げ、固定比を圧縮した。
軽・重工業分野に加え、半導体などの先端分野でも中国から他の国や地域に生産拠点を移す企業は増えている。アップルの“iPhone”などの生産を受託する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、インドへの直接投資を積み増した。
半導体製造装置を手掛ける米アプライドマテリアルズもインドの事業運営体制を強化する。チップを製造する台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、インテルなどは、個社ごとに勢いの差はあるものの、日米欧などに対する直接投資を強化している。
“一人っ子政策”の代償は大きい
世界の主要企業の脱中国が加速する背景には、中国でより効率的に付加価値を獲得することが難しくなったことがある。中国でモノを生産し、販売することによって得られる粗利を引き上げることは容易ではなくなっている。
粗利を増やす方策は大きく2つある。コストを引き下げるか、販売価格を引き上げるかだ。前者に関して、世界の企業が中国での事業運営コストを引き下げることは難しい。2013年、中国の生産年齢人口(15~64歳)はピークに達した。2022年、人口も減少に転じた。
“一人っ子政策”の負の影響は大きい。労働力の供給は減り、人件費は増加するだろう。中国にとって人口は経済成長を高めるプラスの要素から、成長を下押しする要因と化し始めた。
人口以外の影響も大きい。2018年春、先端分野を中心に米中の対立が激化した。半導体、人工知能(AI)などのIT先端分野で米国は中国向けの輸出規制や技術供与をより強く制限した。コロナ禍の発生と強引なゼロコロナ政策によって、世界の企業は中国の政策リスクの高さを改めて認識した。それも世界の工場としての地位低下に拍車をかけた。
ウクライナ紛争の勃発、異常気象などをきっかけとするコスト増加の影響も大きい。より安定した場所で、事業運営の効率性を高めようとする企業は増えている。