なぜ死亡の公表を控えていたのか

県サッカー協会はJFA並びにJリーグに報告。その後Jリーグは7月14日からWBGTにかかわらず、飲水タイムを設定し、なおかつスタジアムにいる観客に対しても飲水を周知したという。

これまで公表を控えてきたことについては「県シニア連盟を窓口に、現況の情報と報告は適宜受けておりましたが、ご遺族の心中や状況を考えたときに、この件がどこまで情報として流布されるかということに対し相当な配慮をしなくてはいけないと考えた」(県サッカー協会)。

「受け取り方によっては悪意のある憶測や不要な憶測が表面化し、遺族の方へ被害が及ぶかもしれない。よって、亡くなった方やご遺族のプライバシーを一番の優先順位として、まずは県内の各連盟、各関係の長へ報告するにとどめているところです」

昨今、SNS上の誹謗ひぼう中傷による被害が社会問題化していることを重く見たのだろう。ところが、この事案はすでにSNSで拡散されている。複数の他県指導者から「埼玉県でプレー後に熱中症の死亡事故があったと聞いたが、当日の気温、WBGTなど、どんな状況だったのか聞きたい。情報がないと対策も打てない」と嘆く声を耳にし、筆者は取材を始めた。

このデジタル時代、迅速な情報伝達は必須に違いない。直接の死因は熱中症ではなかったものの、試合後に倒れたのは事実。重く見たからこそ県協会もJFA、Jリーグ等に連絡をし、Jリーグも対策を講じたのだろう。中央組織以外にもこのことを共有し、同じサッカー人やスポーツ界に注意喚起するのが公益財団法人の責務ではないだろうか。

ガイドラインは守られていたが命は守れなかった

なんといっても、私たちは「過去最大級の暑さ」と言われる夏を迎えている。にもかかわらず未だ大人も、夏休み真っただ中の小中高校生も練習や試合に励んでいる。そのなかで、山形県米沢市で部活動を終え帰宅途中だった13 歳の女子中学生が7月30日、熱中症の疑いで搬送された後に死亡した。この事実を深刻に受け止め、予防策を講じるべきだろう。

そのためにはこの埼玉事案も、理由を探り整理しなくてはならない。交代メンバーはいた。熱中症ガイドラインも守られていた。では、何をどうとらえ直し、何をすべきなのか。

写真=iStock.com/aapsky
※写真はイメージです

2020年から本格的にパンデミックに陥った日本は昨年までの3年間、多くのスポーツが夏の間の活動をフルに行っていない。これはサッカーも同じだ。試合や練習など、かなり制限されてきた。4年ぶりにフル稼働する夏なのだ。

しかも、この4年間で地球温暖化の影響がさらに大きくなっている。九州から北海道に至るまで、所々で猛暑日(最高気温35度以上)となり40度に迫る地域も多い。関東でも、熱中症警戒アラートが発表される猛暑が続いている。

想像以上に暑い。だから、私たちはテレビで連日猛暑を示す真っ赤な日本地図を見て驚いている。それなのに、現場のスポーツ関係者も、筆者も含めたメディアも、3年間の空白が危機感を鈍らせていたのではないか。猛暑のスポーツにもっと注意を促すべきではなかったか。