ガイドラインの基準に問題はなかったのか

前出の永島教授は「年々状況は悪化している」と話す。永島教授は4年前の2019年に『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか 体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』(DOJIN文庫)を上梓した(当初は単行本)。タイトルは編集者がつけたものだが、当時は「40度超えの日本列島なんて大袈裟だ」というようなことを言われた。

「だが、今はもう誰もそんなことを言わなくなった」

教授の予想はわずか4年で現実に限りなく近づいてしまった。加えて気象の専門家によると、これまで世界の平均気温上昇は100年に一度だったのが、「地域によっては10年に一度上昇している」(永島教授)。

並外れて気温が高い場所も過去あったが、現在はそれが局所ではなく日本中ある程度の範囲に猛暑が広がっているという。つまり、私たちは想定外のところでショックを受けたまま立ちすくんでいる状態なのかもしれない。

永島教授は「まず気象がかなり変わってしまっているっていうことを、もっと認識しなければいけません。そのうえで行動パターンを変える必要があります」と問題提起する。

強すぎる日差しに参っている若い男性
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「例えば、サッカー協会の熱中症ガイドラインは、元気な人たちを前提に考えられたものなわけです。そこをもっと考えなくてはいけません。寝不足とか体調不良だったり、血圧の薬を飲んでいるとか、成人病関連の因子があればそれもリスクになります。もっと個別ベースで考えたほうがいいでしょう」

したがって、例えばガイドラインの基準から2段階ほど落とすなど工夫を勧める。

「WBGTが31で試合中止なら、ご自分たちでローカルルールを試験的に作って29にしてしまうといった工夫は必要かなと思います。それはちょっと各論になってしまうので、例えばスポーツドクターとかトレーナーなどに相談してもいいでしょう」

死亡事故で亡くなった人の7割に肥満傾向がある

さらに言えば、子どもでも、大人でも、肥満傾向のある選手は熱中症リスクが高い。本人も周囲も注意を向けなくてはいけないという。日本体育協会の調べ(1990~2012)で、学校管理下の熱中症による死亡事故で肥満傾向にあったケースが7割以上というデータもある。

「運動しているときは熱源として筋肉が多いのですが、そこに脂肪が多かったりすると、物理的に熱が逃げなくなってくる。肥満はリスクだともっと周知してほしい」(永島教授)。