「みんながそうしているから自分もそうした」
エルナ・ペトリは、自分の行為について、裁判で次のように弁明しました。
この証言の最後で述べられたのは、「みんなもそうしているから自分もそうした」という、集団内で「みんな」が行っている行動への同調という弁明です。そう言えば、自分の責任を軽くできると、彼女は考えたのかもしれません。
「集団内での立場」が倫理観よりも優先された
集団全体がホロコーストのような残虐行為に手を染めている時、自分が集団内で異端視されたり排除されることを恐れて、自らの意思でそれに加担するという「同調」行為は、女性だけでなく男性の場合にも多く見られた現象でした。
ドイツの第101警察予備大隊(ホロコーストで中心的な役割を担った親衛隊とは別組織で、ナチ占領下のポーランドで四万人近いユダヤ人を殺害)について、厖大な文書記録で詳細に研究した、アメリカ人の歴史家クリストファー・R・ブラウニングの著書『増補 普通の人びと:ホロコーストと第101警察予備大隊』(谷喬夫訳、ちくま学芸文庫)に、以下のような記述があります。
この本では「順応への圧力」という言い方がなされていますが、実質は同調圧力と同義だと考えて間違いはないでしょう。倫理的あるいは道徳的に考えて、その命令への服従や行動の是非を考えるのでなく、集団内での自分の「立ち位置」という観点でいちばん最適な行動をとる。そうすることで、集団の中で自分の立場は保たれる。
ナチスのホロコーストが、あれほど大規模かつ組織的に実行された背景には、同調圧力という我々の身近な問題とも繋がる、心理的な動機も存在していたのです。