だが、「事件」の原因や経緯が明らかにされていないのに、関係者の処分を決めたことには違和感が残る。
稲葉会長が「誰がどういう形で主導したのか、はっきりしないような意思決定のプロセスが存在した」と語っているのだから、この時点で適切な処分だったかどうかを判断できるはずもない。「専門委員会」の報告は形式だけと自ら宣言しているようなものだ。
前執行部も、現執行部も、まさに、ガバナンス上に大きな問題ありと言わざるを得ない。
経営委員会は「責任はない」と開き直る
NHKの予算や重大な経営方針を決する最高意思決定機関の経営委員会の責任も見過ごすわけにはいかない。
5月16日の経営委員会で、稲葉会長が初めて不祥事の経緯を報告したが、その後、森下俊三委員長との間でガバナンスをめぐる経営委のあり方について激しいバトルが繰り広げられた。稲葉会長は、経営委もNHKのガバナンスに関わるよう求めたが、森下委員長は突っぱねたやりとりが、公開された議事録に残されている。
その後、森下委員長は記者会見で「予算書では、金額もBSの話も一切どこにもない。説明が何もなかったので審議のしようがなかった。誠に遺憾」と執行部に対する不満をぶちまけ、経営委に責任はないと開き直った。
すぐさま、日本新聞協会が「経営委員会と執行部の間で責任の所在が整理できていない。ガバナンス上の大きな課題だ」と批判する意見書をまとめた。
放送行政に詳しい宍戸常寿・東大大学院教授は「執行部だけでなく、経営委員会や監査委員会の責任も重大だ。国民を代表して国会同意を経て選ばれる経営委員の役割を果たしていない。NHK全体が問われる問題だ」と断罪した。砂川浩慶・立教大教授も「経営委員会は、全般的な経営責任を負う。経営と執行の分離という建前はあるが、執行部が出した計画を承認するだけの組織ではない」と指摘している。
ご都合主義、自己保身がNHK不信を増幅させている
まったく同感である。
森下委員長は、委員長代行だった18年秋、かんぽ生命保険の不正販売を告発したNHKの「クローズアップ現代+」をめぐって、日本郵政グループの抗議に同調し上田良一会長(当時)を厳重注意した問題で、主導的役割を果たし、個別番組への干渉を禁じた放送法違反の疑いをかけられた“前歴”がある。
その時は経営委が徹底的に執行部糾弾に関わったのに対し、今回は経営委に火の粉が降りかかりそうになったとたんに執行部とは無関係を決め込んでしまった。
経営委と執行部の関係を使い分けるご都合主義や、自己保身に走る姿は醜いとしかいいようがない。いつまでも経営委員長のイスにしがみついている状況が、国民や視聴者のNHK不信を増幅させていることを知るべきだろう。