またNHKで「事件」が起きた

NHKがネット同時配信「NHKプラス」では認められていない衛星放送(BS)番組関連の予算をこっそり計上して国会が承認してしまった問題は、NHKのガバナンス(企業統治)が劣化している実態を天下に知らしめた。ルール違反を知りながら、執行部の幹部だけで企てた“奸計”だけに、その罪は大きい。

NHK
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「ネット」を「放送」と同様の「本来業務」に格上げする議論が大詰めを迎えているタイミングで発覚した今回の「事件」は、NHKのネット事業の拡大に批判的な新聞界や民放界を勢いづかせ、“お墨付き”を与えるはずだった総務省の有識者会議のとりまとめも当初の予定より大幅にずれ込みそうだ。

かねてからNHKのネット事業の拡張にあたっては「業務・受信料・ガバナンス」の三位一体改革を成し遂げることが前提とされてきたが、その一つであるガバナンスの機能不全が明らかになった以上、「公共放送」から「公共メディア」に膨張した場合にきちんと規律が守れられるかどうか、疑念は深まるばかり。「ネットの本来業務化」や「ネット受信料の創設」など、今後のネット事業の展開に暗雲が広がっている。

NHKは7月中にも、外部の有識者で設置した「専門委員会」で再発防止策をとりまとめることにしているが、「事件」の底流にはNHKが抱える根源的な病原があるだけに、ありきたりの報告書では局面打開の糸口にはなりそうにない。

BS番組の同時配信は当分棚上げされそうで、まさに功を焦って“自爆”してしまったといえる。

BS番組のネット配信費9億円が「ほぼノーチェック」で通過

今回の「事件」の経緯をおさらいしてみる。

発端は、2022年12月。総務大臣が認可するNHKの「インターネット活用業務実施基準」に反していることを承知で、前田晃伸・前会長が正籬聡・前副会長や伊藤浩・前専務理事ら幹部と計らい、23年度予算にBS番組配信の設備調達費約9億円を盛り込んだ稟議書を一部理事だけに回して決済したことに始まる。BS番組のネット配信は24年度を念頭に置いていたという。

その後、BS番組配信関連予算は、理事会にも諮らず、最高意思決定機関の経営委員会にも説明せず、監督官庁の総務省にも報告せず、23年3月末に国会で承認されてしまった。チェックするタイミングは何度もあったのに、素通りになってしまったのである。

稲葉延雄・現会長や井上樹彦・現副会長ら新執行部が異常事態に気づいたのは4月に入ってから。前田会長が23年1月に退任、正籬副会長も2月に退任、伊藤専務理事の退任が4月に決まったタイミングだった。

首謀者のトップ3が職を離れた段階で、事態の重大性を憂慮していた局内から、ようやく報告が上がったという。「事件」発生から4カ月近くが経っていた。