節約を指示したのに一度に「10万円」の支出が……

3カ月後、再び私の元を訪ねて来ました。私は、前回の相談でお願いしたアドバイスが守られているかが心配でした。

「先生に言われたとおり、ほら、家計簿をつけていますよ」

確かに家計簿に丁寧に記帳はしてありましたが、支出は思ったようには減っていません。逆に食費などは増えており、聞くと外出が増えて外食が多くなったからだそうです。さらに見ていくと、10万円という大きな支出もあります。

「これではダメですよ。ご相続でまとまった資金が入って、気が大きくなってしまったのではありませんか」

私はがっかりしたこともあり、ついきつい口調で詰問してしまいました。すると相談者は、

「そうかもしれません。実は、介護職員初任者研修というのを受講して、通っているのです。それで外食も増えてしまい……」

介護職員初任者研修というのは、以前の「介護ヘルパー2級」の講座を改変したもので、既定のカリキュラムを終了すると、介護施設の職員や訪問介護ヘルパーへの道が開けます。

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相談者は母親の介護をしている間、たびたびデイサービスや訪問介護などで介護職員が働く姿を目にし、親近感を持ったそうです。ケアマネジャーは何かと声をかけてくれ、相談にも乗ってくれる頼もしい存在でした。そんな姿を見るにつけ、「自分も人のために役に立つことをしたい」と思うようになったそうです。

母親の遺産が入り、とりあえず目先の生活に不安がなくなったことで、思い切って研修を受講したということです。相談者にとっては、久しぶりに集団生活を送ることになりましたが、今までやってきた介護をきちんと学べるということで抵抗はなかったそうです。

介護職員初任者研修を修了して、介護の仕事に就くことができれば、収入が得られるようになり、老後の資金状況はかなり改善されます。しかし、今まで長いこと仕事に就くことができなかった50代の人が、今さら就職することはできるだろうか、と私は心配でもありました。就職につながらないのであれば、すでに家族の介護が終わった今では、ただのムダ遣いになりかねません。その点を確認すると、相談者はゆっくりと、そしてしっかりと述べ始めました。

「確かに私もその点は心配がないと言えばうそになります。でも母の介護を3年間やって、少しは自信がつきました」

母親をデイサービスに連れていく際、あるいは散歩に連れて歩いている際に、近所の顔見知りの方に会うと、いつも言われたそうです。

「お子さんにいつも見てもらえて良かったですね。幸せなことですよ」

言われたお母さんも嬉しそうに頷いていました。