政治学者が見た専門家会議

【尾身】そんな時、東大の牧原先生の論文を読みました。

「(専門家チームは)政権をあてにせず、自らが情報発信することで、時々刻々変化する事態に国民の目を向けさせようとしたのであろう。だが本来、専門家の判断はあくまで専門的・科学的見地からなされるものにとどめ、その助言を受けて政治決断を下し、責任を担うのは政府のはずである」
「その観点から疑問なのは、首相の記者会見に尾身会長が同席したことだ。本来、担当閣僚が同席すべきであろう。(略)政府の対策チームのメンバーではない尾身会長を同席させたことで、政府が負うべき責任を、尾身会長ひいては専門家チームに負わせているのである」

牧原先生は政治学の専門家で、今回のコロナ対応を政治学者として観察しており、専門家会議のこれからのあり方について明確な考えを持っていらっしゃいました。このため、5月19日の我々の勉強会で彼とお会いし、意見を聞きました。

牧原先生は、「科学・感染症の専門家の責任範囲とミッションを明確化する」「可能な限りアカデミア全体からの協力を求める」「政治の判断を明確化するために、過度な意見集約をしない」「感染症専門家からの意見、経済専門家からの意見を両論併記する」「(専門家会議の議事録が作られていなかったことが問題視されたが)専門家の役割がどこまでかを議事録で明確化させる」などと提言され、その上で、「今回の流行が収束したところで、専門家会議を解散するのも選択肢の一つだ」と指摘されました。

写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです

やむにやまれぬ思いで「卒業論文」に取りかかった

専門家会議のあり方に疑問を感じていた尾身氏らは、緊急事態宣言が解除されると、専門家会議の「改組・廃止」を念頭に置きながら、専門家会議から「卒業」するための「卒業論文」の執筆に取りかかった。会議発足から約4カ月。卒論は誰から求められたわけではない。やむにやまれぬ思いからだった。尾身氏らは2020年6月24日、日本記者クラブで記者会見を行い、政府と専門家助言組織の正しい関係について提言した。まさに、その日の同時刻。西村康稔大臣が別の記者会見で波紋を広げる重大発言をした――。

――専門家会議のあり方について見解をまとめようと考えた理由はどのようなことでしょうか。

【尾身】私たちは「卒業論文」と呼んでいました。これを出した理由は先ほど申し上げたように二つあります。一つめは、政府と専門家の役割分担が不明確であったこと。もう一つは、社会科学系の人を入れないといけないということです。卒論を書くのに、かなりの時間とエネルギーを費やしました。