プロだアマだと壁を作ってはいられない

小林や山田の念頭にあったのは、少子化と野球人気の低下だ。懸案は出生数が減り続け、野球人口が輪をかけて減っているということ。それを打開するために、プロだアマだといつまでも壁を作ってはいられない。

長野県内の野球を扱う専門誌編集人の小池剛(55歳)は取材を通して危機的状況を肌で感じていた。

「中学の野球部員は10年ちょっと前、全県で5000人以上いたんですが、今は2000人台で半減です。サッカーやバスケ、バレーも減っていますが、割合でいうと野球が一人負けです」

また、山田は野球人にも責任があるという。

「スポーツは多様化していますが、野球界は普及の努力を本気でしてこなかった。しなくても野球は人気があるとあぐらをかいてきたツケが回ってきたんです」

小林は懇談会と称して各野球団体に声をかけて集まったとき、小中学生の野球人口の減少を実感していた。しかし、周囲はプロアマの大同団結の組織を作りたければ作ればいい、といったひとごとのような反応もあったという。

そこで、小林は自分が会長を務める県高野連こそ責任を持つべきだと腹をくくる。広い長野県では地域ごとの活動も同時進行しないと底辺拡大はできない。地区単位の協議会を作れないか。一番、可能性があったのは県庁のある長野市を含む県北部のエリア「北信」だった。

北信では2017年に野球指導者の会である「ベースボールサミット」が有志によって立ち上がっていた。中学校教諭の齋藤貴弘(37歳)は先輩教諭に誘われた。

「長野駅前の蕎麦屋の2階の宴会場に北信の中学、高校の野球部に関わる教員40人ほどが集まりました。熱い思いを持った先生方で、何かをやろう、という会合でした。考える前に走り出しちゃう。やりながら考えるスタンスでした」

それが2017年11月、「北信野球の日」誕生のきっかけになった。蕎麦屋の集いが2100人の子供たち、保護者を含めたら3300人を集めた大イベントになって大きな盛り上がりになったのだ。翌2018年、高野連の200年構想に基づく資金の援助もあって継続的なものになっていく。

だが、プロアマの大同団結の道は険しかった。最大の課題は、どれだけの団体を参加させられるか、という点だ。前出の編集人・小池はこう語る。

「高野連、大学野球、シニアリトル、プロは競技です。生涯野球、高校野球OB・OG連盟、早起き野球などは余暇で、目的がそもそも違う」

同じ野球でも関わり方がそれぞれ異なり、大同団結はそう簡単ではない。中でも、どうしても外せない団体がある。野球人口が一番多い軟式野球連盟のいわゆる“軟連”だ。

「軟式と硬式は全くの別団体で(交流がないため)ケンカにもならなかったんだから。お互いに何をやって来たかなんて興味もなかった」

こう言うのは、信濃グランセローズ会長の飯島泰臣(57歳)だ。当初、軟連はやはり無関心で交渉は難しかったという。だが、野球人口の減少という課題は同じ。その解決には一緒に取り組むしかない、と参加を決断する。

撮影=清水岳志
中学校教諭の齋藤貴弘氏(写真左)、信濃グランセローズ会長の飯島泰臣氏(写真右)