國貞克則氏 最近の若い人たちは、転職を当然のことのように考えているようです。終身雇用・年功序列の時代は、一度勤めた会社に人生を懸けざるをえませんでした。しかし、20歳そこそこの若さで、本当にやりたいことが見つかるかどうかは疑問です。私は学生時代から「海外に大きなプラントを建設する仕事がしたい」という夢を持っていました。卒業後、神戸製鋼に入社し、希望通り海外プラント事業部に配属されたものの、後に人事部に異動となりました。その場その場で一生懸命取り組んできたつもりですが、何となく違和感を覚え、そのうちに、何がしたいのかもわからなくなった記憶があります。
おそらく、10代や20代では、本当に自分がやりたいことは見えていないのです。むしろ、生涯にわたって稼ぎ続けることができる能力を身につけながら、そのなかでじっくり探すべきでしょう。
ところが、目の前にぶら下がった転職候補先の高額な報酬に目がくらむと、人生のなかで一番大切なことがわからなくなります。私は自分の子供には「お金を追っていたら、大切なものを見失うよ」といっています。実は欲が抜けると、ふと目の前が開けるものです。自分に合う仕事とは何かなどということは、結局は長い時間をかけて、多くの経験をしなければわかりません。
最近よく使われる“キャリアデザイン”という言葉から浮かんでくるのは、理想とするゴールを設定し、そのゴールに効率的に到達しようとするイメージです。しかし、社会や人間や人生は机の上で考えられるほど単純ではありません。社会は変化し、人間の考え方は年とともに変わり、人は人生のなかで誰と会うかわかりません。
そのような複雑な社会と人生のなかで、「やりたいことが見つかるまで仕事をしません」などというより、まずスタートラインに立つことが大切です。 縁があって就職した会社や職場で、与えられた仕事を辛抱して続けていく。一生懸命に取り組んでいけば、そこでの経験が押しも押されもせぬ実績になるはずです。それこそが、自分のキャリアとして初めて誇れるものになります。