英語入試がTOEFLになるかも!?

茂木健一郎●脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授。1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心の関係を研究。

東大はあらためて、学内の国際化を望んでいる。秋入学はそのための第一歩なのである。より多くの日本人学生が海外留学できるよう、また学内の外国人留学生を増やすことで、日本にいながら異文化と触れあう機会をつくるのが目的だ。文部科学省の調査によると、世界の約7割の大学は秋入学であり、4月入学は日本を含め、インドやパキスタンなどわずか7カ国しかない。現行のシステムでは留学した学生の多くが留年を余儀なくされる。

「よりグローバルに、よりタフに」。これが、大学が目標とする東大生像である。茂木氏はこのような動きを「Jリーグからワールドカップへ」とたとえている。

「これまで入学時期の違いから米ハーバードや英オックスフォードなど有名大学と直接競争する立場になかった東大も、今後は同じ土俵に上がることになります。『どうせ東大も秋入学なら、同じく秋入学の海外の大学にも挑戦しよう』という受験生も出てくるでしょう。そうなれば東大は優秀な学生を失う恐れもある。だから今回の決定は、ある意味、開学以来一番の革新でもあるんです。おそらく英語で行う授業も増えるでしょう。ひょっとしたら、入試の時期や形態も変わるかもしれない。たとえば入試にTOEFLを導入する可能性だって、ゼロではありません」

となると心配なのが、英語の勉強。従来のやり方で対応できるのだろうか。英語で直接読み、書き、聞き、話し、議論する能力が、日本人は非常に低い。

「学校の英語教育と受験英語の質が悪いとしか言いようがありません。自分で言うのも何ですが、僕はかなり勉強ができるほうでした。英語も得意。それでも、大学時代に日米学生会議で1カ月アメリカに滞在して現地の学生と英語で議論したときに痛感しました。受験英語はまったく役に立たないということを。『1万時間の法則』というものがあります。1万時間勉強すれば、誰でもその分野に熟達するというものです。1万時間とは、1日3時間みっちり勉強して10年間。長いと思うかもしれませんが、10歳で始めた子が20歳でネイティブ並みになると考えれば、それほど無茶な話でもありません」

ただ、同じ英語を勉強するのでも中身が重要。茂木氏のお勧めは、原書を読むこと。それも辞書は極力引かず、どんどん読み進めていくことだという。

「高校時代、僕は20~30冊の原書を読みました。これまで日本語の本をどれくらい読んできたかを考えれば、原書を読まずに英語が上達しないと嘆くほうが無茶な話だとわかるはずです」

茂木氏は東大の秋入学実施は、日本の閉塞(へいそく)感を打破するきっかけになるはずだと期待をもつ。ギャップイヤー(高校卒業から入学までの半年間)をうまく使えば学生の視野も広がるはずだ。

「僕が聞いた話では、北京大学の優秀な学生は日本などには来ず、グーグルに入社してしまうそうです。それもアメリカ本社に。おそらく日本人にとって『グーグル入社』とは、グーグル日本法人を指すでしょう。もう考え方のスケールが全然違うんですよね」

いま、受験生にとって最大の目的は大学に入ることだろう。しかし本当に大切なのは、入学してからすごす時間の密度の濃さ、そして将来の可能性を探ることだと茂木氏は強調する。

「東大入学だけを目標にするのではなく、どういう子に育てたいかをあらためて考えてほしい。秋入学は、子供たちの将来の可能性を広げる一つのきっかけになると僕は期待しています」

※「2010年度大学教育の達成度調査」より。回答は東大の学部卒業生1994人。

(市来朋久=撮影)
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