前頭葉が老化していることがわかる“ある行動”
では、前頭葉が衰えると、どうなるのか。
脳腫瘍や脳出血、もしくは認知症によって前頭葉の機能が損なわれた患者さんには、「保続」という症状が見られることがあります。簡単に言うと、同じことを繰り返す症状です。
たとえば、患者さんに「今日は何月何日ですか?」と聞き、それには正しく答えられたとします。だとすると、その日付を覚えているのですから記憶はおおむね正常です。知能もおそらく大丈夫でしょう。ところが、続いて「あなたの誕生日は何月何日ですか?」と聞くと、前の質問に対する答えと同じ、「今日の日付」を答えてしまうのです。
前頭葉機能検査の国際基準となっている「ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)」でも、保続についてのテストを行います。
この検査では、トランプのようなカードが使われます。カードには、赤・緑・黄・青の4色、星形・丸形・三角・十字型の4種類のマークが描かれていて、マークの数は1~4まであります。「色/形/数」という三つの軸で分類できるカードを、ある規則性を持って提示していき、「では、次は何が来ますか?」と推理してもらうテストです。
検査を行う側は、その規則性をときどき変えます。たとえば最初は「3、2、1、4」と数だけ変化させて3周繰り返しておいて、次は「赤・青・緑・黄」と色の変化に切り替えます。すると、保続が起こっている患者さんは、最初の「3、2、1、4」という規則性から離れられず、誤った答えをしてしまいます。最初の規則性をすぐに見抜けるのですから、やはり知能はおおむね正常のはずなのに。
前頭葉が衰えると、これほどではなくても、保続と似たようなことが起こります。
ご自身を振り返ってみてください。
最近、行きつけの店にしか行かなくなっていませんか?
同じ著者が書いた本ばかり読んでいませんか?
新しい環境や事物に対して、抵抗を覚えてはいないでしょうか?
これらの「前例踏襲思考」こそが、真に警戒するべき老化の兆しです。
人の名前が思い出せなくても心配しなくていい
中年期の皆さんが「脳の老化」で一番気にすることと言えば、記憶力の低下でしょう。「人の名前が思い出せない」「前から買いたいものがあったのに、ネットのセールが始まってみると、それが思い出せない」などです。
そんなとき、「認知症の前触れか?」と焦る方もいるかもしれませんが、これは老化とはほとんど無関係で、心配すべきポイントではありません。
このタイプの物忘れは「想起障害」と言って、脳に書き込まれたデータが多すぎるがゆえに、スムーズに引き出せなくなっている状態です。50代ともなれば、起こって当然の現象とも言えます。これまでの人生経験も積み重なってきますし、仕事をバリバリこなしている人なら、書き込まれる情報量も膨大だからです。
想起障害の場合、引き出しにくくなっているだけで、記憶そのものはきちんと残っています。人間の脳の記憶容量は、皆さんが思うよりもはるかに膨大なのです。
たとえば、20年ぶりに訪れた町で、「そうそう、前もこの店に入った!」と思うことがあるでしょう。20年間ずっと忘れていたのに、その場所に行けば思い出せる。あとからどんなに新たな記憶が積み重なろうと、記憶は保存されているのです。