負けそうになったら使う

【小泉】核兵器は、通常戦力ではどうにもならないような場合に使うわけですよ。通常戦力でどうにかなるんだったら、こんな危ないものをみんな使う必要はないわけですね。

で、アメリカは世界最強の通常戦力を持っているから、そもそも先に核を使うインセンティブはあまり高くないというか、核の使用を回避しながら戦うことができるわけです。

しかし、ロシアの場合はそうではないんですね。最近心配されているロシアの先行核使用、先行というか戦争が始まらないうちにいきなり核を使ってしまうという話は、戦っている最中に戦局が不利なので核を使って相手を脅しつけて停戦を強要するというオプションで、1997年くらいに出てきたものでした。

ソ連が崩壊して6年くらい経ち、ロシア軍が本当にボロボロになっているときに軍改革を進めないといけない、今より兵力を減らして経済の立て直しのために軍事費を浮かそうというときに、では大戦争になったらどうするんだという問題に対して当時のロシア軍の中から出てきたのが、負けそうになったら早い段階で核を使うと。

弱者ほど核に頼る

【小泉】核を戦場で使うというのはみんな冷戦期には考えていたんですが、そうではなく戦略核をごくごく限定的に、相手に対して非常に見えやすい場所で使うことによって戦争の継続を諦めさせる、こういうことをやるので兵力を削減しても大丈夫なんだっていう話で、ロシアの積極的核使用は実は通常戦力の削減とセットになっているんですよね。

だから、ロシアの核戦略は必ずしも頭のおかしい奴が考えてきた話ではなくて、通常戦力を核で補います、しかもそれは闇雲に核を使って戦うのではなく、核を使うことによって戦争をやめさせられるんです、という話なんですよ。

じゃあ本当にそんなことができるのかというのは全く別問題なんですが、やはり弱者であればあるほど核兵器という究極的な破壊力に頼りたくなるところがあるんじゃないですかね。

ですから今の世界で、どんな場面で核が使われる可能性があるかということを考えると、大きな力の差があるものの戦いにまず考えられるのではないかと私は思います。

また、そもそも核兵器を持っていなければ使いようがないので、核兵器を拡散させないという核不拡散の重要性がここにあると思うのです。

【村野】今の小泉さんのお話はすごく重要だと思います。核兵器を先に使用したいという誘惑にかられる、あるいはせざるを得ないインセンティブがあるのは、通常戦力で劣勢にある側なんですよね。まさに今のロシアがそうですし、北朝鮮も同様です。

通常戦力の劣勢を核戦力で補おうとしているというのはこの2つの国に共通することで、私は北朝鮮の核戦略はロシアの核戦略を相当参考にしていると思っています。