過去最多の998万羽が殺処分に
ところが、2022年の秋ごろから卵価格は上昇しはじめた。2022年8月に204円だった卵価格は9月に223円に上昇し、12月の価格は284円になった。その後も価格上昇の勢いは強まり、2023年3月は前年同月比75.9%上昇し、343円に達した。
卵の価格上昇の背景には、いくつかの理由がある。まず、感染症の影響は大きい。コロナ禍によって、わが国の供給網が絞られたことは養鶏や物流などの停滞を招いた。また、ウクライナ紛争によって飼料などの価格も上昇し、養鶏コストは上昇した。
さらに、2022年は鳥インフルエンザの流行が例年よりも早く始まった。感染が確認された養鶏場の鶏は殺処分される。その9割が採卵用の鶏であるようだ。2023年1月9日に農林水産省が発表した資料によると、2022年10月下旬に感染が確認されて以降、約998万羽が殺処分の対象になった。過去最多だ。
一方、家計を中心に需要される卵の量が大きく落ち込むことはない。結果的に需給バランスは崩れ、卵価格は上昇している。なお、鳥インフルによる卵の価格上昇は米欧にも共通する。
シンガポールでは「6個入り1000円」で販売
そうした状況下、シンガポールや香港で、わが国の卵を高級品とみなす人が増えている。日本養鶏協会によると、2021年度、わが国で生産された卵は約258万トンだった。うち約2.4万トンが輸出された。輸出先は、香港、台湾、シンガポール、マカオ、グアムだ。2022年暦年の輸出金額を確認すると、香港向けは93.5%、台湾向けは4.7%、シンガポール向けは1.8%と、香港の割合が大きい。
2005年に147トン(4583万8000円)だった香港向けの輸出は、2022年に2万8247トン(78億5184万6000円)に増加している。香港では全国農業協同組合連合会(JA全農)が、卵焼きなどを生産する工場を稼働させた。目的は、すしなど日本食に合った卵食材をよりよい鮮度で提供することにある。
シンガポールでも、わが国の卵は急速に人気を獲得し、高級品としての評価は高まっているようだ。朝日新聞デジタル(3月27日)によると、シンガポールのスーパーでは6個入りの卵のパックが1000円で販売されているという。
高級化の背景には、アベノミクスが進む中で、わが国を訪れる外国人観光客は増えたことがありそうだ。日本に来た観光客が、日本の卵の味を覚えて帰国したのかもしれない。それに加えて、政府は和食の魅力を海外に発信するなどして、わが国の文化の魅力をより強くアピールしようとした。