また、子どもがいると食事に気を使いますので、自分自身も体調を崩さず、仕事にも勉強にも取り組むことができました。

冷蔵庫や洗面所などあちらこちらに英単語を書いた紙をペタペタと貼っていましたが、親が熱心に勉強している姿を子どもに見せることは「勉強しなさい」のひと言より何倍もの効果があると感じていました。

もちろん現実は、予定外の仕事が多く入り、ヘトヘトになって帰った日に限って子どもがぐずったり、抱っこをせがまれて一層疲れる、というときもあります。

しかしそれでも、同時並行で進めたほうがプラス面が大きい、と思うのです。

そもそも「あれ」をやってから「これ」をやろうというふうに、ひとつひとつを順番にやっていくと、いつまでたっても実現しません。

やりたいことがいくつもあったら同時に進める。これが、やりたいことを実現するコツのひとつだと思っています。

寝坊常習犯の元落ちこぼれドクター

やりたいことを同時並行でやる。

そういうと、多くの人は、なんでもそつなく、手際よく、要領よくこなすスーパーウーマンを想像するかもしれません。でも、残念ながら私はそのイメージとはかけ離れた、いわば正反対のタイプです。

もともと、私は「バリバリできる人」とはほど遠い人間です。

研修医時代を私は聖路加国際病院で過ごしましたが、そこで私はかなりの落ちこぼれレジデント(研修医)でした。

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まず、睡眠不足に弱いのです。当直の呼び出しに起きられず、ナースさんたちにも「今日は穂波ちゃんだからね」「あっ、そうか」と当直室まで呼びに来てもらうありさま。

どんなに患者さんのことが心配でも、寝ずの番をしているICU(集中治療室)のナースカウンターで、ついコックリコックリ……。怖い看護師長さんも不憫ふびんに思ったのか、たびたびコーヒーを出してくださいました。

また、わからないことがあると、教科書を開いて自分で調べたり考えたりする前に、すぐ上級医師に聞いてしまいます。

「なんのために頭がついてるんだ、使え」と、そのたびに先輩研修医からいわれていました。

医師になりたての頃、点滴の血管確保が上手にできず、「他の先生に代えてください」と患者さんにいわれたときには、自分のふがいなさに涙がポタポタと止まりませんでした。

苦手だった血管確保のスキルを上達させるべく、現在のように練習キットがなかった当時、先輩医師が「僕の腕を練習台に使っていいよ」と手を差し出し、練習させてくれました。

また、夜になると救急外来に張りついて「とにかく点滴をするときは、血だらけの方でもどんな方でも、私にやらせてください!」と志願し、数カ月の間、血管確保の技術を徹底的に訓練しました。

この訓練の甲斐かいあって、その後は点滴の血管確保が誰よりも得意になり、ドイツに留学した際には「点滴の注射ならFrau Yoshida(ドイツ語で「吉田先生」の意)にお願い」といわれたほど。

以前はもっとも苦手としていたことが、自分の得意分野になることもあるなんて。徹底的にやれば、欠点も武器に変えられるのだなぁと、実感した経験でした。

私の人生のなかであんなに無我夢中になった日々はなかったでしょう。つらいこともありましたが、そこを乗り越えたら自信に変わる、ということを学びました。社会人としての原点となる、珠玉の時期だったと思います。