「死が目前に迫った状況を考える」

自分の経営者としての幸せの定義を考えると、事業は拡大しないほうがいい場合もあります。その一方で、事業の拡大こそが経営者としての幸せだというのであれば、さらに事業を拡大したほうがよいでしょう。

経営者としての幸せの定義を明確にすることは簡単なことではありませんが、まず必要なのが、「世間の価値観=自分の価値観」という思い込みを解消することです。規模が大きい会社の社長のほうが偉いという世間の価値観と自分の価値観は別物であると考えることで、その思い込みは少しずつ解消されていきます。

また、その思い込みを解消する方法として、「死の間際を想う」という方法があります。死が目前に迫り、人生を振り返った時、経営者としてどのような人生を送れたら心から幸せだったと言えるのかを考えるのです。

スティーブ・ジョブズ氏(写真=Tom Coates/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

Appleの創業者で、2011年に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏はこんな言葉を遺しています。

「自分がもうすぐ死ぬという事実は、大きな決断の手助けをしてくれる人生で最高のツールだ。外部からの期待、プライド、恥や失敗への怖れなど、ほとんど全てのものは死と向き合うと消え去る。そして、本当に大切なものだけを残してくれるんだ」

人は死が目前に迫ると、他者との比較やそこから生じる優越感や劣等感などはどうでもよくなり、残された時間を本当に必要なことのために使おうとします。その時間の使い方に、自分本来の価値観が表れます。

健康であるうちからこういった時間の使い方ができれば、死の間際に人生を振り返った時、心から幸せだったと言える確率は大きく高まるでしょう。

「世間の価値観=自分の価値観」ではない

世間の価値観にとらわれて、それを疑いもせずに事業を拡大しようとする経営者が多いだけに、私は経営者にはこういった視点から経営を進める方法を指導しています。すると、経営方針ががらっと変わる方も少なくありません。そして、とても感謝してくださいます。なかには涙を流される方もいます。

ユダヤの教えに次のような言葉があります。「自分が自分のために自分の人生を生きていないのであれば、いったい誰が自分のために生きてくれるのだろうか」

成功者と呼ばれているが決して幸せではない。そういった経営者にならないよう、自身の経営者としての幸せの定義を明確にしていただき、重要な意思決定をする際はその内容を十分考慮していただければと思います。

そのためにも、「世間の価値観=自分の価値観」という思い込みの解消から始めてみてください。それによって、「○○さんのところは、社員は何人いらっしゃるんですか?」と聞かれた時の反応も変わるでしょう。

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