トランプ氏の本性を隠しておこうと必死だった

しかしもし、「トランプが実は軍事行動に消極的な人物だ」と金正恩が知ってしまったら、圧力が利かなくなってしまいます。だから、絶対に外部には気づかせないようにしなければならなかったのです。「トランプはいざとなったらやるぞ」と北朝鮮に思わせておく必要がありました。私だけでなく、米国の安全保障チームも、トランプの本性を隠しておこうと必死でした。

米朝首脳会談前に繰り返し対話したのは、CVIDを堅持しようとしたためです。でもなかなかうまくいかない。4月27日に南北首脳会談があり、金正恩は初めて板門店(パンムンジョム)の軍事境界線を越えて韓国に入りました。文在寅韓国大統領は「もう戦争は起きない。朝鮮戦争の終戦を目指す」と言い、米朝首脳会談に向けた環境を整えようとしたわけです。私はトランプに「文在寅は楽観的過ぎる」と言ったのですが、分かってもらえなかった。

金正恩委員長と文在寅大統領(写真=Cheongwadae/Blue House/KOGL/Wikimedia Commons

拉致問題の提起を優先しようと決めた

そこで私は、米朝会談の直前、論点を絞ったのです。CVIDは、そもそも世界が共有している基本的な方針だから、トランプへの要請から外そうと。日本としては、拉致問題の提起を優先しようと決めました。

私はトランプに、「拉致問題を解決できなければ、北朝鮮支援の金を出せといわれても、日本は出せない。日朝の国交正常化は、普通の国同士の正常化とは事情が全く違う。日本は税金を使って、過去の清算をしなければならない。国民の納得感が得られなければ、支援は無理だ」と話しました。「かつて韓国が『漢江(ハンガン)の奇跡』と呼ばれる経済成長を達成したのも、1965年に結んだ日韓請求権協定・経済協力協定に基づいて、日本が5億ドルを援助したおかげだ」ともね。するとトランプは、日本が北朝鮮を支援するという話に興味を示したんです。