「One Panasonic」と「One Japan」

両氏の話は自分の身に置き換えると遠すぎる、と思った人もいるだろう。

では、「One Panasonic」「One Japan」のような活動はどうだろう。松下電器産業が松下電工や三洋などを傘下に収めパナソニックと社名を変えたタイミングで、交流と学びをテーマに社員のモチベーションの向上・知識拡大・人脈形成を目的に活動する若手有志団体「One Panasonic」を設立した濱松誠氏。ライバル企業でもあった被買収企業側にしてみれば反発すらある中、経営者でもなしえなかった一体感の醸成に寄与した同団体はトップ経営者らに広く支持された。

また、その後、会社、業界を越えて、富士ゼロックス、NTT東日本、JR東日本、リコー、ベネッセなど数社で立ち上げその後55社が参加するまでに至った「One Japan」。年功序列の根強い日本の大企業の中から、会社の枠を超えて約1200人の若手がつながり、新規事業開発に取り組んでいる。参加者は、一歩踏み出すことで、今いる会社や仕事が、前よりも楽しくなった、と言う。

個人主導でキャリア形成を行い自己実現していく

「育成」は、かつては企業側が主体でいかに人材を企業のニーズに当てはめていくか、その手段として使われていた。いまは個人主導でキャリア形成を行い自己実現していくか、というように変わっていく、その転換点に来ている。

自ら仕事を選べる、エンプロイアビリティ(雇用能力)、市場価値が上がるなど、だれもがそのメリットを挙げるが、キャリア自律がなかなか進んで来なかった理由は、その将来のメリットよりも前に、目の前のデメリットがあるからだ。

それは、自分で何をやるか考えなければならない、それが正しいかどうか分からないまま自分で判断しなければならない、自分への投資にはお金も時間も掛かる、などだ。その短期的なデメリットを乗り越えた先には素晴らしいメリットが待っている。それが『起業家のように企業で働く』の中で紹介している自律的に働く人たちだ。

日立やソニーの成功例は、人的資本経営の推進で加速される

企業側も、人材が自律的にキャリア形成を行うために様々な施策を行うようになってきた。キャリア公募、リスキリングの機会提供、副業解禁、社内副業制度、留職、レンタル移籍などなど。また退職者のアルムナイネットワークを整備し、出戻りを歓迎するなどだ。

実際、V字回復を果たした日立やソニーなど出戻りや子会社から親会社のトップになった経営者が変革に成功するなどの例も数多くある。これが冒頭に述べた人的資本経営の推進によって加速されるのは間違いない。

さて、あなたはどうしますか? 自律でいきますか、やっぱりやめておきますか?

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