背景には「働き方改革」の失敗がある

これを読んだ社員のあなたが「会社が社員にもっと投資して大切にしてくれる」と喜んだとしたら、とんだ勘違いだ。

これらの方向性が示された背景には、暗黒の30年の間、すっかり日本企業・日本経済の地位は相対的に落ち続けたこと、そしてコロナ禍前に取り組んでいた「働き方改革」によっても全く日本企業の生産性は向上しなかったことがある。なんとか企業に重い腰を上げさせて、本気に、価値創造、イノベーション、変革を指向させる、という意図がある。

手前味噌だが、拙著『人材マネジメント戦略』(1999年刊 日本実業出版社)でも、今後人材を資産、資本と捉えるようになる、そうすると必然的にROI(Return On Investment)が問われることになる、と書いている。いまは取りあえず人材に投資をしようという動きになっているが、次に来るのはその投資判断の質、経済合理性が問われるということだ。

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メンバーシップ型は、たち行かなくなっている

また、同レポートをまとめた検討会議長である伊藤邦雄氏は、メンバーシップ型のあり方はたち行かなくなっており、ジョブ型に移行せざるを得ないと明確に述べている。

上記拙著でも述べているが、従来の会社と社員が上下関係、親子関係であり、いったん入社すれば、あとは会社がOJT、Off-JTを通じて育ててくれる、定年まで雇用し続けてくれる、会社は育成と雇用を守る責任がある、という上下関係モデルは成り立たなくなっている。

その代わりに、「会社と個人は対等な大人同士の関係であり、双方が努力をすることで結果的に長期雇用が成り立つ、どちらかが努力を怠るとその関係性は崩れ去る」。2022年に出された人材版伊藤レポート2.0では、企業と社員の関係性が「囲い込み型」から「選び、選ばれる関係」になると表現している。

なかなかこの対等な関係に馴染めなかった、日本企業の経営者、人事、そして社員も、そちらのモデルに移行せざるを得ないことが突きつけられているということだ。