「芭・巴・粑」は全部「巴」

文字改革の本来の目的は、漢字の段階的な廃止であった。つまり、56年に制定された簡体字はあくまでも過渡的なものだとされていたのである。

文字改革委員会は、さらなる漢字の改革に取り組んでいた。1977年、「第二次漢字簡化方案」の草案が提出され、81年にはその修正案が出される。

「第二次漢字簡化方案」では、さらなる画数削減が目指されていた。どのような文字が提案されていたのか、以下に並べるので、それぞれ、もとの漢字が何か、推測してみよう。


坒 辺 氿
疒 卩 歺 彐

正解は以下の通りである。

芭・巴・粑
壁 道 酒
病 部 餐 雪

過激な簡略化である。見ているだけでも楽しい。

まず、「芭・巴・粑」を見てみよう。56年制定の簡体字では、確かによく使われる漢字を簡単にすることができた。異体字も統一されたので、「回」の書き方を四つ覚える必要もなくなった。

目標のために、意味は無視

だが、ひとつひとつの漢字の書き方が簡単になっただけで、文字の総数はあまり減っていない。記憶の負担をさらに減らすためには、簡単にするだけでなく、文字の総数自体を減らす必要があるのだ。

そこで「芭・巴・粑」はすべて同じ発音なので、「巴」に統合している。文字削減という偉大な目標のために、意味は無視しているのである。

この調子でやれば、文字の総数を減らすことができるだろう(ちなみに、日本でも同様の統合はなされていて、「辯(しゃべる)、辨(わける)、瓣(花びら)」がすべて「弁」に統合されている例が有名である)。

「壁 道 酒」は画数の多い部分を画数の少ない文字に変形することによって「坒 辺 氿」とした。「道」は日本語の「辺」(旧字「邉」)と同じになっているが、「刀」と「道」が声調は異なるものの同じ発音なので「刀」を音符として使っている。同様に「壁」と「比」が同じ発音なので「壁」は「坒」に、「酒」と「九」が同じ発音なので「氿」になっている。

「病 部 餐 雪」の簡略化は、一部分だけ残す方法である。やまいだれを使うものは他にもたくさんあるが、病気の代表は「病」だから「病」を「疒」としてしまうのだろう。「餐」は中国語のレストランを表す単語「餐厅」の「餐」だから、街角でもよく見かける。

これを「歺」と書くと確かに楽だ(私が最初に教わった中国人の先生はこの字体を使っていた。ずいぶん簡単になっているなと思ったが、正式な文字ではなかった)。

「雪」は「電」が「电」になるのと同じ法則で「彐」となっている。視力検査みたいな記号になってしまった。「堂」は、一部分削った結果「坣」となっている。印刷不鮮明になってしまったかのようだ。