「組織に落とし込む」ことの重要性
戦略経営者とは、経営者自身が(戦略コンサルタントと同等レベルで)新しい戦略の論理と視点を更新し続け、それを使って社内幹部の戦略発想を刺激し続け、部下と共に戦略ストーリーを立案し、それを確実に組織に落とし込み、その実行と結果に責任を負う。
ここで言う「組織に落とし込む」という言葉だが、軽く読み過ごさないでほしい。これは新戦略を部下に向かって説明したりプレゼンすることだけを言っているのではない。
「組織に落とし込む」とは、改革者が立案した「戦略ストーリー」を、組織の上から下まで「今そこにいる人々」に、できるだけ「シンプル」に、かつリーダーの「熱い語り」で伝える。それによって、その場で聞いた部下たちが心を揺さぶられ、つまり一発で認識を変え、事業の現状に対する自分の「責任と役割」を理解する。その結果として、「今そこにいる人々」が皆で「心」を合わせ、新戦略の実行に向かっていく。
日本企業の社内を知っている人々は、そのことが現実に簡単でないことを知っている。改革には必ず抵抗とサボりの現象が出てくる。それに対して、改革のステップは、次のものだ。
①トップが自ら「ハンズオン」のスタイルで事業組織に立ち入る。
②経営幹部に対する戦略教育を行う。彼らの戦略リテラシー(戦略の読み書き能力)を画期的に上げることを狙う。
③それを受けてトップと幹部は、熱くなって新戦略を立案する。
④その戦略を彼らは、自らの手で、組織一体になって、実行に移す。
⑤このステップで事業革新を目指すと同時に、経営者人材が育成される。
組織を目覚めさせるような内部改革が必要
事業革新手法は、戦略だけでなく、内部組織の活性化を重視している。その企業改革論を少々長い言葉で定義してみると、
「(弛緩している日本企業において)今そこにいる人々(幹部・社員)の戦略意識を目覚めさせ、トップとラインが一体となって事業革新を立案し、実行するための企業改革論」
本書の改革でも、基礎的な形でそれが実行されていることに読者は気づくだろう。その要素を加えて、改革論をもっと簡略な表現に削ぎ落とすとこうなる。
「戦略論と組織論の一元的な企業改革論」
もっと短い言葉にするために、著者が行き着いた究極の短い定義はこれだ。
「戦略と熱き心の改革」
M&Aを改革のように言うのは、それが本当に改革として有効であれば否定もしない。しかし業績が低迷している日本企業には、内部的な「戦略論と組織論の一元的な企業改革」が必要であり、また有効だと著者は信じている。