高度成長時代の経営は通用しない

だとすると、この辺鄙な土地に、この規模の病院が、どのようにしてできあがってきたのか。理事長の話の中に、その不思議を解く2つのカギがあった。第一に、計画よりも、「とにかくやってみる」実践を重視したこと。今でも、職員には、「やってから考えよ」と言う。

今回の被災地支援も、その具体的な表れだろう。

第二に、利益のことはあまり考えず、必要な投資を削らないようにしたこと。医療機械や病院施設への投資に力を注いだし、なにより人への投資に注力した。医師の数が増えても、余分なマネジメント費用さえかけないようにすれば大丈夫とのこと。医師の力に見合う仕事量さえあれば、経営の負担にはならない。

むしろ、心臓外科など話題になる医療を扱ったり、臨床教育や海外研修など医師の育成を図ったりして、全国から医師を集めることに注力した。今では、医学部のある全国79の大学のうち、70大学からの卒業生がいるとのこと。

以上、同病院の被災地支援の活動とそれを可能にする病院経営をごく簡単であるが、紹介したが、そこには組織経営を考えるうえで大事な手がかりがある。2つの志向の価値を指摘したい。

第一に、経営におけるロバスト(しなやかさ)志向である。組織経営には、2通りのやり方がある。一つは、「最適デザイン志向&計画制御型」。組織を取り巻く環境、顧客の様子、競争者の様子、そして自身のもっている資源を調べる。だが、それにはメリットもあるが限界もある。計画制御型だと、誰からも文句が出ない病院が企画される。だが、その病院は、そのときの環境にピッタリ合わせてつくられているため、当の環境が変わるととたんに力を発揮できなくなる。大都市の立派なニュータウンが、10年経たずして住民の年齢構成変化により、住民の生活に合わなくなるケースと似ている。前回の時論でも述べたが、そこにはロバスト(頑健)性が欠けている。もう1つのやり方は、ロバストデザイン志向の「不断の適応」型である。そのポイントは、実践、柔軟さ、直感の3つである。