致死量はわずか「食塩20粒程度」

2022年12月12日の有力紙ワシントン・ポストは、米国では2000年代初頭からの約20年間で、フェンタニルを含むオピオイドによって累計75万人近くの命が奪われたと報じた。また、連邦議会が行った分析では、オピオイドが米国のコミュニティー(地域社会)にもたらした経済的損失は2020年だけで、1.5兆ドル(約195兆円)に達するという。

このような悲惨な状況にもかかわらず、米国政府はオピオイドの蔓延を食い止めるための有効な解決策を見いだせていない。連邦麻薬取締局(DEA)は2022年にフェンタニルの粉末4.5トンと錠剤5060万錠を押収したが、これはなんと3億3190万人の「米国人全員の命を奪うのに十分な量」だという。

フェンタニルの最大の特徴は致死量が少ないこと。重さにして2ミリグラム、食塩で例えると20粒程度のひとつまみにも満たない量で体の呼吸機能をつかさどる脳細胞が損傷を受け、呼吸が停止して死に至る可能性があるということだ。

多くが合法の鎮痛薬に偽造されている

フェンタニルが大量に闇市場に出回る前は、何物にも代えがたい強烈な快感と多幸感をもたらすことで、「クイーン・オブ・ドラッグ(麻薬の女王)」とも呼ばれたヘロインが最も危険な薬物と見なされていた。しかし、フェンタニルはヘロインの50倍も強力だといわれており、その致死性の高さは想像を絶するものがある。

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しかも恐ろしいのは、メキシコから密輸されるフェンタニル錠剤の多くが「オキシコンチン」や「パーコセット」など合法のオピオイド鎮痛薬に似せて偽造されているため、フェンタニルが混入されているのに気づかずに使用して亡くなる人が少なくないことだ。

コロラド州に住む16歳の少女ソフィアさんも麻薬の売人から偽造鎮痛薬を購入し、フェンタニルが含有されているのを知らずに服用して危うく命を落とすところだった。

2022年4月6日の「PBSニュースアワー」の番組に出演したソフィアさんの父親によると、彼女が助かったのは通報を受けて駆け付けた警察官がすばやく適切な措置をしてくれたからだという。その警察官は彼女が呼吸をしていないのを確認してオピオイドの過剰摂取を疑い、薬物依存者の緊急対応のために携行していた解毒剤の「ナルカン」を投与した。すると薬が効いて、彼女の呼吸機能が回復したそうだ。