典型問題の数が減少「初めて見る」設定の問題が中心に
文字量だけでなく難易度も上がったというのはどういうことか。具体的には、共通テストでは日常を想定した場面設定が問題に加わることが多くなったという。
「センター試験では毎年似たようなテーマの問題が出題されていました。例えば数学I・Aの2次関数なら、ほとんどの年で、文章題ではなくまず2次関数の式が書かれていました。さらに内容も『グラフの頂点』『グラフの平行移動』『最大値・最小値』など、この分野での典型問題が出題され、教科書や問題集にあるような基本問題が解ければ、一定の点数が取れました。つまり数学が苦手な子にとっては、公式や問題のパターンを暗記して、あとは過去問を解いて形式に慣れるというのが一番の対策だったわけです」
対して、共通テストでは陸上選手の歩幅や地図など、社会生活に数学が登場する場面から、情報を整理して問題解決に必要な式を立式する形式の出題が増えた。これらはどれも受験生が解いたことのない初見の問題ばかりで、これまでのような公式の暗記では解けなくなってしまったという。
「例えば21年度の数学I・Aの2次関数の問題は、陸上競技の短距離100m走のタイムや歩数、距離を考えるものでした。これまでのように『これは2次関数の問題だからいつものように計算して解けばいいんだ』と一目で判断できるような問題ではなく、文章から、問われている解を出すための式を組み立てる必要がありました。その式を見てはじめて『あ、これって2次関数の問題なんだ』と気づけるような内容です。つまり、問題文の読み解きでつまずいた子は、計算にすらたどり着けなかったわけです」
その翌年の22年度の数学I・Aの2次関数の問題では、太郎さんと花子さんの二人が2次関数について語り合う会話文に沿って設問を解かなくてはならなかった。正解するには会話から、まず二人が“2次関数のどういうところに疑問を感じているか”を読み解く必要があった。
センター試験と共通テストでは問われる能力が違うと樋原さんは指摘する。
「センター試験で求められていたのは計算を正確に行う能力で、いわば処理能力でした。それが共通テストでは、処理能力に加え、実社会のどのような場面で数学が活用されているかを題材として、“その分野を本質的に理解しているか”を読解力と絡めて問われるようになりました。処理能力を発揮する前に、読解力でつまずいてしまっている受験生が多いというのが現状です」