コロナの場合、ワクチン接種や自然感染による免疫は時間とともに低下する。英イースト・アングリア大学医学部のポール・ハンター教授(感染症)によると、ワクチン接種後の免疫(50%以上の人)はおそらく1年程度だが、自然感染はやや長くなり、ハイブリッド免疫ではさらに長くなる。ハイブリッド免疫は少なくとも数年間、重症化を予防する。

中国はゼロコロナ政策に固執してきたため、自然感染が広がらず、個々人にも社会全体にもハイブリッド免疫は形成されなかった。さらに国産ワクチンにこだわったため重症化に対する予防効果は低く、昨年2月ごろからワクチン接種をほとんど行っていない。このため「感染に対する防御はほとんど失われている」(ハンター教授)という。

「ゼロコロナ政策を撤廃したから感染爆発が起きたのではない。撤廃する前から都市部で無症状者によるステルス感染が広がっており、ゼロコロナ政策を維持するのは無意味との結論に習近平国家主席が達したのだろう」とハンター教授は分析する。

3年近く続いたゼロコロナ政策で目立つシャッター街

3年近く続いたゼロコロナ政策で中国の企業は潰れ、店を畳んだシャッター街には「求人」ではなく「売店」の貼り紙が目立つという。ゼロコロナ政策の撤廃で回復が期待された経済は入院患者と死者の大量発生でさらなるカオス(混乱)に陥っている。

中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」英語版は「国は感染防止から重症化予防に重点を移すようになった」と地域病院でコロナ治療に取り組む様子を伝えている。習氏がいかにゼロコロナ政策撤廃の「現実」を覆い隠そうとしても、ソーシャルメディアで拡散していく国民すべての目を塞ぐことはできない。

環球時報は「12月8日と9日は多くの医療スタッフが感染したため、当直の医師1人が2日間で1400人ほどの患者を受け持った。ピークは12月26日、27日まで続いた」という地域病院の医師の言葉を紹介している。国家衛生健康委員会も多くの都市で感染爆発が起き、12月上旬に感染者数が急増したことを認めている。

英大衆紙デーリー・メールは「中国当局者がコロナによる死者数が“膨大”であることを認める。上海市の住民2500万人の70%が感染」と報じている。ウクライナ戦争がウラジーミル・プーチン露大統領の命取りになる可能性が大きいのと同様に、コロナ対策の失敗が習氏の致命傷になる可能性が出てきた。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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