また、交通捜査の経験を持つ元警察官は、こう語ります。

「交通事故捜査は『被害が軽いか重いか?』が捜査方針や捜査経済を決定する全てです。迅速な捜査の立ち上がりは、当て逃げやひき逃げであっても、物損や軽傷では期待できません。特に自転車が加害者の場合は、ナンバープレートもついておらず、具体的に何を探せばいいのか雲をつかむようなレベル。聞き込みをしようにも具体的に調べようがないんです」

SNSやメディアで拡散することの重要性

ひき逃げをした犯人は救護せずに逃げているので、被害者のけがの状況は把握していません。被害が軽いか重いかは、偶然の結果であって、本来はその悪質な行為が重く問われるべきです。

しかし、前出のコメントにもあったように、警察は交通事故を取り扱うとき、「被害の軽重」で判断しているという現実があるのです。

2014年(平成26年)、警察庁は各都道府県警察に「過失運転致傷等事件に係る簡約特例書式について」という通達を出し、被害者の傷害の程度が約3週間以下の事件について、「簡約特例書式」という簡略化された書式を使うよう指示しました。

もちろん、ひき逃げは悪質な「事件」なので、本当はこの指示に従うべきではないのですが、Aさんの場合も全治4週間ということで軽傷事案として扱われ、組織的な捜査は行われなかった可能性があります。

ひき逃げされた被害者にとっては到底納得できないと思いますが、万一の場合はAさんのように自ら防犯カメラの映像を探し、目撃情報を募るなど、積極的に動く必要がありそうです。

ネット社会の現代においては、SNSでの拡散が大きな力になります。またメディアの協力を求めることも重要です。もしひき逃げ犯が見つかれば、警察は必ず検挙してくれます。

とにかく、被害者本人が動けない場合でも、家族や知人に協力を求め、初動の段階から積極的にアクションを起こすことが大切です。

事故は7.5分に1件発生、賠償額が高額になることも

警察庁の調べによると、2021年に発生した自転車乗車中の交通事故は6万9694件。およそ7.5分に1件の割合で発生しています。また、自転車事故による死傷者数は6万8114人でした。

Aさんの場合、幸い命に別条はありませんでしたが、自転車側の過失で歩行者を死亡させたり、重度の後遺障害を負わせたりするような重大事故も多数起こっています。

日本損害保険協会のサイトには自転車の加害事故による複数の重大事故が掲載されています。以下、同サイトから高額賠償事例上位3件を抜粋させていただきます。

1)9521万円
男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。(神戸地方裁判所、平成25(2013)年7月4日判決)