高倉さんが麻生さんと交わした立ち話とは

バーバーショップ佐藤の話に戻る。

高倉さんは麻生さんと店で顔を合わせると、ふたりだけでよく立ち話をしていた。

撮影=山川雅生

高倉さんは「太郎ちゃん」と呼び、麻生さんは「先輩」と呼んで最敬礼していた。高倉さんは麻生さんのお母さんを知っていた。麻生さんのお母さん、麻生和子さんは吉田茂の娘で、美人、英語、イタリア語などをこなす才媛。憧れの女性だった。

ある時、わたしが髪の毛を切りにバーバーショップ佐藤に行ったら、マスターの佐藤さんが笑っていた。

「健さんがにこにこしながら話してくれた」

無口で知られる佐藤さんがどうしても話したいといった様子でわたしに教えてくれた。

「健さんが言っていたんです。麻生さんと選挙の話になって、健さんが『太郎ちゃんは大丈夫だよ』と言ったそうです。

すると、麻生さんが『先輩が立候補しなければ大丈夫ですよ』と冗談を言ったらしいんです。野地さん、どう思いますか?」

野地秩嘉『高倉健 沈黙の演技』(プレジデント社)

高倉健が立候補することはあり得ない。でも、ちょっと気になったので、調べてみた。

高倉さんの出身地、中間市と麻生さんの実家がある飯塚市は同じ福岡8区である。

有権者は約35万人。

麻生さんは毎回、トップ当選をしていて得票は10万票を超えている。

しかし、もし、高倉健が無所属新人で立候補したとする。自民党員から共産党員まで、9割の人は「高倉健」と書くだろう。そうしたら30万票は入る……。

妄想に過ぎないけれど、高倉健がふるさとを愛していたのは事実だ。

だから、生きていたら、やはり旦過市場に駆けつけただろう。

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