遺志を継ぐ者たちの「旦過市場復興プロジェクト」
今年の4月と8月、北九州市小倉北区にある庶民のための市場、旦過市場が火災に遭った。いわしの糠炊き、くじら肉を扱う店が多い市場だ。1度目は42店舗が、そして2度目は45店舗が焼失した。
「高倉さんが生きていたら、復興を助けるために何かをしたに違いない……」
旦過市場火災のニュースを聞いて、そんなことを考えていたら、高倉さんの気持ちが「高倉プロモーション」代表取締役で養女の小田貴月さんを動かしたようだ。
復興支援プロジェクトが火災の直後から始まっていたのである。
小田さんは北九州に住む旧知の染織家、築城則子さんからの一報を受け、小倉織を使った復興支援に乗り出した。小倉織は、江戸時代の豊前小倉藩(現北九州市)の特産物。縦縞を特徴とした丈夫な綿布だ。
小田さん、築城さんは地元、北九州に関係するアーティストたちと協力し、一体となって小倉織グッズを製作、販売することにした。そして、販売して得た利益は旦過市場一帯の被災者に寄付する。
「映画の撮影は、コツコツと織物を織るようなもの」
小倉織のグッズには「負けるか この野郎」の文字と高倉健の横顔がプリントされていて、「旦過市場と一緒に立ち上がる」という強いメッセージが込められている。
「負けるか この野郎」は過酷な撮影になると高倉健が心のなかで叫んでいた言葉だという。
そして、小倉織にしたのは旦過市場の地元産品であるだけではない。
「映画の撮影は大勢の人が大真面目に毎日コツコツ、織物を織るように丁寧に時間を紡いでいくものなんだよ」
高倉さんが小田さんにそう話していたからだ。
文字を書いたのは生前、交流のあった門司区在住のイラストレーター、黒田征太郎さん、全体のデザインをしたのは北九州市出身のデザイナー、野口剣太郎さんである。
できあがった小倉織グッズはTシャツ、前掛け、バッグ、ハンカチ、風呂敷など。
小倉織グッズは「高倉健の応援」ということもあって、話題にもなり、地元では大人気だ。高倉健の身内の人たちは「弱きを助ける人たち」なのである。