NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は10月16日(日)の放送から最終章に入った。歴史学者の濱田浩一郎さんは「最終回までの最大の見どころは、主人公の北条義時の最期だろう。死因は、病死、毒殺と諸説あり、ドラマではどう描かれるのだろうか」という――。

『鎌倉殿の13人』はこれまでの大河と何が違うのか

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第39回「穏やかな一日」(2022年10月16日放送)では、主人公・北条義時(演・小栗旬)が、初代執権で父の北条時政を鎌倉から追放し、2代目執権に就任した後の出来事が描かれていました。若年の3代将軍・源実朝を巧みに操りつつ、実権を握っていく義時。

「穏やかな一日」とのタイトルですが、義時に対する有力御家人(和田義盛や三浦義村)の不満の高まり、後に波乱を巻き起こす公暁(2代将軍・源頼家の遺児)の登場など、不穏な空気満載でした。

同ドラマの視聴率は10%台をキープしており、好調と言えるでしょう。

俳優の小栗旬さん
松本零士さん原作のアニメ映画『キャプテンハーロック』の完成記念イベントに出席した俳優の小栗旬さん=2013年8月20日、東京都港区台場(写真=時事通信フォト)

ではなぜ『鎌倉殿の13人』(以下『鎌倉殿』と略す場合あり)は人気を博しているのか、私はこのドラマのどこを興味深いと思っているのか。『鎌倉殿』の楽しみ方に迫ってみたいと思います。

このドラマのすごいところは、主人公を善人で終わらせていないことです。大体、大河ドラマの主人公というのは(一部に例外はあるにせよ)、純情で真っすぐで、正義感溢れて……というキャラクターが多いもの。

例えば、昨年放送された大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一(演・吉沢亮)もそのような描かれ方でした(これは同ドラマを非難しているわけではありません。私は『青天を衝け』も面白く見ました)。

2018年に放送された『西郷どん』も、主人公・西郷隆盛(演・鈴木亮平)を勇気と実行力で時代を切り開いた「愛に溢れたリーダー」として描いていました。

しかし、『鎌倉殿』に登場する主人公・北条義時は違いました。伊豆の小豪族の子として生まれた義時は、当初は目に輝きを帯びた、思いやりがある真っすぐな青年でした。ところが、源頼朝(演・大泉洋)と出会い、数々の紛争や汚れ仕事を任されているうちに、義時の目から光が消え、陰鬱いんうつな表情に変わっていったのです。これは、ネット上でも義時の「闇落ち」と称されました。

義時の「闇落ち」を象徴する名回

それを象徴するのが第17話「助命と宿命」。この回において、源頼朝は娘・大姫の許嫁で、宿敵・木曽義仲の息子、木曽義高の殺害を義時に命じます。

義時は、義高を逃そうと奔走しますが、結果的に、義高は伊豆の武士・藤内光澄により討ち取られてしまうのです。

義高の死を知り、大姫は悲嘆に暮れる。その姿を見た母・北条政子は「決して許さぬ」と、義高を殺した者への怒りを露わにします。本来ならば、主命に従い恩賞に与かるはずの藤内光澄は、斬罪に処されるのです。光澄は「なぜだ。なぜだ!」と絶叫するも、義時立ち会いのもとで、処刑されます。

この回では、頼朝の命により、義時は一条忠頼(武田信義の子)の殺害にも加担しています。汚れ仕事を重ねる義時に表情はなく、目の光は消えていました。義時を演じる俳優・小栗旬の役者としての力量を感じることができました。