偽物の捜索差押え令状と警察手帳を準備して現場に向かう

「横浜の保土ケ谷へ行け」

転戦を命じられ、5人は再び神奈川に引き返してきた。告げられた集合場所は、相鉄線の上星川駅(横浜市保土ケ谷区)だった。駅に着くころ、強盗に入る民家の詳細な住所が吉田のスマホに送られてきた。先着した吉田は周辺を見て回り、近くの駐車場に男らが集結した。

役割分担は、吉田が現場の指揮と見張り。山水が偽の警察手帳と令状を示して最初に入り、他の3人が後から続く計画だった。

偽物の捜索差押え令状には、既に被害者のフルネームが記載されていた。コンビニのマルチコピー機を使ってスマホから印刷できる仕組みを利用していて、この元データもタカヤマが吉田に送ってきたものだ。偽の警察手帳も本物と見まがう仕上がりだった。金色に輝く重厚なエンブレムに、縦型に開く最新の形状をきっちり模していた。開いた時に下部になる写真部分には、最初にインターホンを押す山水の顔写真が合成され、警察官の制服を着た姿になっていた。

捜査関係者によると、こうした模造品は都内の繁華街の露店で売られているのだという。もちろん違法な商品だ。

現場は横浜港を見下ろす高台の一角。表通りから入り込み、車1台がようやく通れるほどの細い急斜面を上り、さらに細い脇道に入った所にその家はあった。

さほど大きくはない一般的な木造一戸建て住宅。一帯は急傾斜地を開発した地域で、周辺にはマンションや木造住宅が密集している。斜面地に張り付くように建てられているせいか、2階に玄関があるのが特徴といえば特徴だった。

手錠をかけて「金庫はどこだ!」と怒鳴る

日も暮れた午後5時30分。山水がインターホンを押した。

「保土ケ谷警察署の者です」

自身の顔写真を入れた偽の警察手帳を示す山水。対応したのは世帯主(当時75歳)の妻(同73歳)だった。

警察官を名乗る男たちが、なだれ込むように家に押し入った。偽の捜索差押え令状と逮捕状、押収品目録を見せる橋本。そこには、家人と妻の氏名が正確に記載されていた。山水が妻に向けて言った。

「あなたの口座が振り込め詐欺に使われている」
「犯人は高齢者を騙している」

妻は、建物の1階にいた息子(当時46歳)を呼んだ。身に覚えがないので「知らない」と繰り返すが、男たちがそれを聞き入れるはずもない。「座れ」などと怒鳴られ、妻は後ろ手に、手錠をかけられた。

写真=iStock.com/appledesign
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現金やキャッシュカードが見当たらないことにいらだった男たちは間もなく警察官の仮面をかなぐり捨てて、口々に怒鳴り散らした。

「金庫はどこだ!」
「キャッシュカードはどこだ!」

吉田は近くで犯行の一部始終を見張っていた。