今のプロ野球選手は「ひ弱で過保護」
1982年と2022年のこの選考基準の該当者を比較する。なお、1982年時点で沢村賞はセ・リーグ限定だった。1989年からセ・パ両リーグ対象となったが、比較のために両リーグの該当者を挙げる。
登板試合数―25試合以上(先発に限定)
1982年 25人(セ15人パ10人)
2022年 6人(セ3人パ3人)
完投試合数―10試合以上
1982年 21人(セ7人パ14人)
2022年 0人(最高はセ6試合パ4試合)
勝利数―15勝以上
1982年 9人(セ6人パ3人)
2022年 1人(セ0人パ1人)
勝率―6割以上(規定投球回数以上)
1982年 11人(セ7人パ4人)
2022年 6人(セ3人パ3人)
投球回数―200イニング以上
1982年 13人(セ7人パ6人)
2022年 0人(最高は山本由伸の193回)
奪三振―150個以上
1982年 5人(セ4人パ1人)
2022年 4人(セ1人パ3人)
防御率―2.50以下
1982年 6人(セ4人パ2人)
2022年 7人(セ3人パ4人)
奪三振と防御率を除く各指標で該当者が激減している。堀内選考委員長の「寂しい」はこのことを指している。
「昭和の時代」の投手や指導者の中には、これらの指標の達成度が低いことについて「今の投手は甘やかされている。ひ弱になった」と言う人が多い。
堀内氏もロッテの佐々木朗希に対し、
「伸びしろも多く、球界を背負って立つ投手になれるが、いかんせん(試合で)投げない」と過保護ぶりに苦言を呈した。
同じく選考委員の山田久志氏も「今が一番、体力と技術が身につく時期」と、もっと投げるように促した。
ここ30年で投手の負担は激増している
しかし客観的に見れば、今の野球が「昭和の野球」に比べて「ひ弱で過保護」と決めつける根拠はほとんどない。
1982年当時、NPBで時速150km/hを記録した投手は中日の小松辰雄など数人しかいなかった。当時は140km/hを超えれば速球派だった。高校野球では「135km/h超の速球を投げる本格派」という表現があった。
しかし2022年では、各球団の半数以上の投手が150km/h以上の速球を投げる。160km/h以上を投げる投手も10人はいる。
また高校野球のトップクラスの選手でも150km/hを投げる。阪神の森木大智は中学の軟式野球で150km/hを投げて注目された。
ここ40年で、日本の投手の球速は10km/h以上速くなっているのだ。つまり、投手の出力が大幅にアップして「投球強度」が増しているのだ。
投球強度が増大すれば、投手の肩肘にかかる負担は幾何級数的に大きくなる。球速160km/hを投げる投手は、140km/hの投手に比して故障のリスクはけた違いに増大する。