「会社に迷惑をかけている人を解雇しやすくするべき」

もともと解雇規制の緩和による人材の流動化を唱えていたのは経済界である。

「人材流動化によって生産性の高い分野へ人の移動を促せば、日本経済が活性化する」という論理だ。2021年に「45歳定年」発言で物議を醸した新浪剛史サントリーホールディングス社長もそのひとりだ。政府の経済財政諮問会議の民間議員である新浪氏はこう述べている。

「このコロナ禍で成長産業と厳しい産業が明確になる中で、成長する産業に経済を牽引してもらうためにも、新陳代謝を進めて成長産業に人材が移ってもらう必要がある。そして成長産業には、賃上げの余力がある。このように、成長産業への失業なき円滑な労働移動を進めれば、賃金上昇もセットで実現できる。その実現のためにも、政府と民間が一緒になってリカレント教育や職業訓練等の実施、人材のマッチングの充実を行い、成長分野での雇用拡大、人材移動促進の具体化について早急に取り組むべき」(「令和3年第2回経済財政諮問会議議事要旨」2021年2月24日)

この考え方は現在の岸田文雄首相が掲げるリスキリング(※)による「人材移動の円滑化」策とも通底する。

※技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと。例えば、不足しているDX人材養成のため、ソフトウエア・アプリ開発やデータサイエンスなどのIT関連/AI学習/情報セキュリティーなどの再教育をする。

そして新浪氏は人材流動化を促す政策として、過去に「解雇規制の緩和」にも言及している。

従業員を解雇するには労働契約法16条の「解雇権濫用法理」によって4つの要件(①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続きの妥当性)を満たす必要がある。

新浪氏はこれについて「解雇法理について、四要件全てを満たすことは、世界経済に伍していくという観点からは大変厳しい。緩和をしていくべきではないかと思います」と発言している(「第4回産業競争力会議議事録」2013年3月15日)。

その上でこう提案している。

「とくに被解雇者選考基準が大事です。例えば、勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員は他の社員に迷惑をかけていることを十分に認識しなくてはいけないと思います。一方で、企業として教育や研修の機会を付与したのかも考慮する。それらを解雇選定基準に入れ、柔軟に解釈すべきです。解釈においては解雇法理そのものよりも、組織全体で迷惑をかけている人に対して解雇が会社として検討しやすくなる柔軟な要件を入れるなど、是非今後検討していただきたいです」(前出・議事禄)

思わず本音が飛び出しているように思えるが、同じように考えている経営者も多そうだ。

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