地方が目指すべきは「Uターンによる社会増」
次に、社会増減について論を進めていこう。地方では若い世代が、進学や就職などで地元を離れたまま戻らない社会減が問題になっている。しかし社会減は、大学や専門学校などに進学して専門知識を得たり、地域外で新しい人脈を作ったりするために必要な「越境学習」の機会でもある。従って若い世代の社会減はやむを得ないと考えるべきである。
長野県に住んでいる筆者は、地元の年配者から「若い世代が進学や就職で、地元を離れることを止めなければならない」という意見を聞くことがある。しかしながらこうした意見は、若い世代が「越境学習」をして成長する機会を奪うことになり、長期的には地方を衰退させることにつながるだろう。
地方が目指すべき方向性は、若い世代が地元を離れることをストップすることではなく、地元を離れた若い世代が越境学習を終えて、男女ともに地元に戻ってくること、すなわち「Uターンによる社会増を増やすこと」なのだ。
Uターンが起こらない地域ではIターンも期待できない
越境学習のための社会減はやむを得ないとしたら、地方ではとにかく社会増を増やすことが重要となる。社会増というとIターンのイメージが強いかもしれないが、実際には地方移住希望者の半分以上はUターンであり、地域でいかにUターンを着実に促進していくかが最も重要である。
Iターン移住者が来ることは予測不能であるのに比べ、Uターンはその土地出身の男女が地元に戻ることであるから、Iターンに比べて起こしやすいと考えられる。そして個人情報保護の問題はあるにしても、自治体にとっては「地元出身者は、住所と名前がわかっている移住候補者」なのである。
極端な仮定だが、ある地域に生まれ育った男女が進学や就職で外に出ても、全員がその地域に戻ってくる、理想的には配偶者を連れて戻ってくる状況であれば、地方の人口は今のように大きく減少していくことはない。しかし、後述するように、地方に住む親たちは「長男が地元に残り、他の子供たちは出て行って構わない」というスタンスなのである。
移住政策を考える場合には、まず確実にUターンを増やしていくことが重要だ。そもそもUターンが起こらないような地域では、Iターンにも期待できないであろう。
第1回で取り上げた北海道東川町のように、その地域に魅力的なビジネスがあると、子育て世代のIターン移住による社会増が起こることもある。それは自然増にもつながり、地域の人口減少が緩和されるだろう。特に東川町は、様々な努力で地域の魅力を高めたことにより、この25年間で人口が増加し、今や人口の約半数が移住者となっていることは注目すべきである。