子供が「みかんせいじん」に夢中になる必然
これに関連した事例として英語の倍速学習が挙げられます。英語の学習アプリには倍速再生機能があります。あれはスピードを速くしてリスニングに慣れる狙いもありますが、注意を向けさせる狙いもあります。注意が引っ張られて、学習効果が高くなります。
人間の耳は音に慣れます。1.5倍速で聴くと、当初はほとんど聴き取れませんが、1.3倍速に落とすとすごくゆっくりと感じます。速い速度で聴いてそこから速度を落とすと、人間の脳は処理が容易になります。
私は、もし読まなくてはいけない本を読みたくないときには、読み上げソフトを倍速で流します。そうすると意識が向きます。音声の速度をうまく使うことで注意が向くからです。
少し古い話題で恐縮ですが、90年代に放映された子供向けテレビ番組『ウゴウゴルーガ』に「ミカンせいじん」というキャラクターが登場し、人気になったことがあります。ミカンせいじんは当時の幼児番組に珍しく、話すスピードが速く話題になりました。
これは子供の注意を向けさせる効果を狙っています。もちろん、子供たちは意識していませんが、直感的に見てしまったわけです。
とにかく速くしゃべる人は「頭いい人っぽい」
人は、速い音声には無意識に注意を向け、よりよく理解し、その上好感を持つ、という話をしました。
しかし、これにはもっと適切な説明があるとの異論があります。聴き手が「好意的になる」ということは変わりませんが、それ以外が違います。実は、こちらの説のほうが有力だとも言われています。
広告の発話速度が速くなると、聴き手にとって、メッセージの内容を理解することが難しくなり、しかも広告自体から離脱してしまう可能性が高くなります。にもかかわらず、「なんだかわからないけどよく感じる」という説があるのです。
中身が理解できていないというのに好感を抱くのはなぜでしょうか?
この説によると、広告からの離脱の有無にかかわらず、リスナーは内容をあまり理解しない代わりに、話し手の声の好感度など、周辺の手がかりに焦点を当てるようになるというのが理由です。
つまり、話の速度が速くなると、内容を無視して、話し手の「速い」という特徴が好意の形成にダイレクトに反映されるというわけです。
内容がわからないので、逆に聴き手はこの人はどんな人なのか推測することにばかり関心が向いて、「よどみなく、深みのある声でしゃべっているから、この人はわかってるんだろうな」と好感を持って受けとめます。
この仮説では、発話が速くなることで内容が理解されて好意が形成されるのではなく、速くなるとよく内容がわからないので、周辺情報に関心が向いて、最終的に好意の形成につながります。
速すぎると、聴き手は周辺情報に関心が向くのがこの説のポイントです。