感銘を受けた故・稲盛和夫の「仕事の結果」の方程式

ぼくが20代の頃に感銘を受けた言葉に、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」というものがある。京セラ・第二電電(現・KDDI)の創業者、故・稲盛和夫氏の言葉だ。それまで「考え方・熱意・能力」を足し算することで結果がついてくると思い込んでいたぼくは、衝撃を受けた。“掛け算”であればお互いがどれだけ強い熱意をもって挑んでも、別々の方向を向いていればマイナスになることもある。マクラーレンとの共闘はコミュニケーション不足が原因で、まさしくこの掛け算ができていなかった。

結果が伴わない時間が増えればフラストレーションが溜まり、不協和音も生じはじめる。やがてマクラーレン側からホンダに対して、勝てないことへの責任を追及する声が出始めた。そこでぼくは、断固として契約を解消する意思がホンダ側にないことを伝え続け、同時に、当時のホンダの八郷隆弘社長や役員たちには「必ず“円満離婚”させます」とも伝えた。結果的にマクラーレン側が折れるかたちで違約金なしに契約解消にこぎつけられたのは、2017年9月のことだ。

話題性がチームのモチベーションを上げる

翌2018年より、ホンダは新たなパートナーとしてスクーデリア・トロロッソとタッグを組んだ。F1のトップチームであるレッドブルレーシングの姉妹チームであり、これを足がかりに、翌2019年にはトロロッソに加えてレッドブルにもPUを供給することになった。

レッドブルレーシングの顧問を務めるヘルムート・マルコ博士とは、それまでもサーキットで挨拶を交わすような仲だったが、正式に契約に向けて交渉を開始したのは、2018年第4戦アゼルバイジャンGPの最中のこと。翌日にはぼくとマルコ博士がレッドブルのモーターホームへの階段を上っていく写真がニュースに流れ、マルコ博士が「ホンダとはよい話し合いをしている」というコメントを残したことで、メディアは一気に賑わった。

写真=iStock.com/Daniel Rodriguez Tirad
※写真はイメージです

これらはぼくが入念に準備をしたもので、あらかじめ親しいメディアに声をかけて、二人がモーターホームに向かう姿を写真に収めてもらい、マルコ博士にもコメントを出してもらうように手配していた。

当時のホンダPUはマクラーレンとともに戦っていたころの“勝てない”印象がつきまとっていた。そのため、ホンダとレッドブルのタッグが報道されても「どうせ破綻になる」と思われるのが関の山だったが、この交渉が強豪レッドブル側からのアクションとなれば、信憑性は一気に高まっていく。そうした“話題”がやがて大きな“流れ”につながる。その“流れ”を感じることで、現場の人間のモチベーションも上がっていく。はては、そうした流れやモチベーションが、未来の勝利や成功を手繰り寄せていく。

すべてがWIN-WINへとつながっていく仕掛け。こうした“仕掛け”が“生きたブランディング”であり、それもまたコミュニケーションの賜物だと思う。