2013年から女性の就業者数は顕著に上昇しているが…

一国の人口のうちどれだけの人が労働力になっているかを示すために、通常使われるのは、「労働力率」という指標だ。これは、15歳以上人口に対する労働力人口(働く意思のある人)の比率だ。労働力調査によれば、日本の労働力率の推移は、図表4に示すとおりだ。

労働力統計による労働力率の推移 出所=『どうすれば日本人の賃金は上がるのか

男性は低下気味。それに対して、女性は2013年頃からかなり顕著に上昇している。男女計では、12年頃までは緩やかに低下していたが、15年頃から上昇している。20年では、男女計で62.0%、男が71.4%、女が53.2%だ。男性の数字が低下してきたのは、高齢者の比率が上昇しているためだ。これが人手不足を引き起こしており、経済成長の足を引っ張っている。

しかし、図表4は、いまの日本が抱える問題を的確に表しているとはいえない。なぜなら、女性の就業者にパートタイマーが多いことを反映していないからだ。

日本人の6割近くは働いていない

「労働力調査」や「毎月勤労統計調査」には、パートタイマーの状況を示すいくつかの数字がある。しかし、バラバラに示されているので、全体像を把握するのが難しい。これらの情報を総合的に捉えるには、FTE労働力(フルタイム労働力)の概念に集約して示すことが望ましい。

OECDは、FTE労働力率のデータを公表している。いくつかの国を見ると、つぎの通りだ(2019年。15〜64歳のFTE労働力人口の同年齢人口に対する比率)。OECD平均では、男が76.4%、女が54.7%。アメリカは、男77.4%、女60.8%。韓国は、男82.6%、女55.2%。スウェーデンでは、男74.7%、女65.6%。ところがどういうわけか、日本の数字がない。

そこで、以下に独自に計算してみることにしよう。

労働力調査によれば、女性は約3割がパートタイマーだ。ここでは、労働力調査の数字を参照して、パートタイマーの労働時間は、一般労働者の半分であるとした。これによって、FTEベースの労働力率を計算すると、図表5のようになる(*1)(*2)

FTEベースの労働力率の推移 出所=『どうすれば日本人の賃金は上がるのか

図表4と比べると、2013年以降の女性の労働力率の顕著な上昇は見られない。また、右に見た諸外国の値と比べると、男も低いが、女がきわめて低い。2020年におけるFTEベースでの労働力人口は、男3376万人、女2255万人、計5632万人だ。労働力調査による労働力人口6868万人より約1236万人も少なくなる。

5632万人の中には、失業者が含まれているが、彼らが職を得ても、総人口1億2580万人に対する比率は、44.8%にしかならない。つまり、フルタイム当量で見れば、日本人の6割近くは働いていないのだ。

(*1)労働力調査では、全就業者を「営業主」「家族従業員」「雇用者」に分け、「役員を除く雇用者」を「正規」と「非正規」に分けている。そして「非正規」を「パート」「アルバイト」「契約社員」「嘱託」等に分けている。ここでは、「非正規」のすべてが短時間労働者であるものとした。そして、その就業者総数に対する比率を「非正規率」とした。また、パートタイマーの労働時間は、「労働力調査(基本集計)2021年」の図5「雇用形態,週間就業時間別雇用者の割合」から、正規の半分とした。なお、図表5では、15歳以上のFTE労働力人口の同年齢人口に対する比率を示している。
(*2)図表5では15歳以上のFTE労働力人口の同年齢人口に対する比率を考えているのに対して、OECDの数字は15〜64歳についてのものであることに注意。