全体的な賃金は上がっているのに、なぜ平均賃金がさがるのか
社員もパートも賃金は下がっていないのに、なぜ平均賃金が下がるのか?
多くの人は、「賃金が上がらない」とは思っているだろうが、図表1、2に見るほど下がったとは実感していないだろう。実感と統計の数字との間で、なぜこのような乖離が生じるのだろうか? 一つの理由は、日本の賃金体系は年功序列的で、歳をとるほど上昇することだ。したがって、社会全体の賃金が下がっても、個人の賃金は上昇することが多い。このため、経済全体の賃金低下が大きな問題として意識されないのかもしれない。
しかし、図表1、2で見たように日本の平均賃金の下落は厳然たる事実なのだから、その原因を解明する必要がある。そこで、一般労働者とパートタイム労働者に分けて推移を見ると、図表3のとおりだ。
パートタイマーの賃金は、継続的に上がっている。一般労働者も、傾向的に下がっているわけではない。2007年頃までは停滞したが、13年頃からは上昇している。このように一般労働者もパートタイマーも賃金が格別に下がっていない。それなのに、全体で見ると、なぜ平均賃金が下落してしまうのだろうか? これは、知的なパズルとしても興味ある問題だが、それだけではない。ここには、日本の賃金事情の大きな問題が隠されている。
パートタイマーの増加が平均賃金低下の原因
この問題を解く鍵は、パートタイマーの増加にある。これについて以下に説明しよう。
例えば、これまで100の賃金の人が2人いたとする。そこに、これまで働いていなかった人が、この2人の労働時間が半分で50の賃金で働くようになったとする。この場合、このグループの平均賃金は、100から、250÷3=83.3に下がる。下がる原因は、3人目の人(パートタイマー)を、最初の2人(一般労働者)と同じように扱って、全体の労働者数を3人と数えたからだ。
この場合には、労働時間あたりの賃金は下がっていないので、平均賃金の低下は、ある意味では、見かけ上のものということができる(ただし、第3の人が、本当は長く働きたいのだが、何らかの理由でそうできないのであれば、大きな問題だ。これこそが、ここで論じたいことだ。この問題は後で論じる)。
平均賃金を計算する際、このことを調整する方法がある。これが、「フルタイム当量」(FTE)というものだ。上の例の場合には、パートタイマーは0.5人と数え、労働者数は2人から2.5人になったと考えるのだ。その場合には、平均賃金は100から、250÷2.5=100になるわけで、変化はないということになる。なお、いまの例の場合、賃金所得の総額は増える。したがってGDPも増える。
他方、国民数は不変なので、一人あたりGDPは増えることになる。平均賃金では日本より韓国のほうが高いのに、一人あたりGDPでは日本はまだ韓国に抜かれていないのは、一人あたりGDPの場合には分母が総人口であることの影響が大きい。