レフト側へのホームランは進化の証し

村上の進化の一端を示す数値がある。本塁打の方向だ。

●2021年 39本塁打
左方向 13本(33.3%)
中堅 4本(10.3%)
右方向 22本(56.4%)

●2022年 53本塁打
左方向 17本(32.1%)
中堅 13本(24.5%)
右方向 23本(43.4%)

左打者の村上にとって真ん中から反対方向(左方向+中堅)への本塁打が、2021年は43.6%だったのに対し、今年は56.6%と大幅に増えている。

「大谷翔平がMLBで評価されるようになったのは、真ん中から反対方向に大きなホームランを打てるようになったからだ」

アメリカのAAA(MLBの一つ下)で強打者として鳴らし、今は横浜で杉本裕太郎(オリックス)などの強打者も通う「野球道場」を経営する根鈴ねれい雄次ゆうじ氏は語る。

一見振り遅れのように見える反対方向に大きな当たりを打つためには、ボールを的確にとらえる技術と、球速に負けない腕力が必要だ。そして引っ張るだけではなく、広角に長打が打てる打者は、さまざまな投球に柔軟に対応できる。投手にはまことに厄介な存在になるのだ。

王貞治のHR記録を更新できるペース

50本塁打はNPB史上9人目、15例目だ。しかし王貞治、野村克也、落合博満らが活躍した時代、本拠地球場は両翼90m中堅115mが標準。本塁打の2割程度は100m以下の飛距離だった。

野球殿堂博物館の王貞治のレリーフ(写真=Captain945/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

それが1988年に東京ドームが開場して以降、日本の球場は大型化し、両翼100m中堅120mが標準となっている。100m以下の本塁打はほぼ根絶した。それ以降に50本を打ったのは5人、7例だけ。日本人選手では2002年の松井秀喜に次いで2人目だ。

史上最年少の22歳で50本を打ち、さらに本塁打を積み上げようとする村上宗隆は、今後、どんな記録を打ち立てていくのか?

NPBで野球を続け、王貞治の通算868本塁打の更新を狙うのも一つの道だろう。高卒5シーズン目での通算本塁打数は157本、これは清原和博の163本に次ぐ史上2位、王貞治の115本を凌駕している。アンタッチャブルと言われた記録の更新に期待したい思いがある。