母親の異変
父親の葬儀や納骨などが終わると、母親がおかしくなった。
何時間も父親の仏壇の前に座ってぼーっとしていることが増え、フォークダンス教室などにも行かなくなり、人と会うことや外に出かけることを嫌がるようになってしまう。
早瀬さんは、息子や自分の仕事のことで忙しくしながらも、母親を気にかけていた。父親の死後、兄も月に2回は母親の様子を見に来てくれていた。
しばらくして、
・洗った後の食器類を元の場所へ戻せなくなった
・洗濯機のボタン操作ができなくなった
・冷やご飯が大量にあるのに、毎日ごはんを炊く
・鍋を火にかけて忘れる
・電子レンジで温めたものを、何日も入れっぱなしにして腐らせる
など、おかしな行動が増えた。
「母は、父に対しても文句が多かったですが、仲は良かったと思います。父は、自分の身の回りのことや家事は全くできないので、母に全部やってもらっていました。そのため、母にやかましく怒られながらも、感謝はしていました」
長年連れ添った相手との死別による悲嘆により、元気を失くしてしまう配偶者は少なくない。早瀬さんの母親もそうだった。
心配した早瀬さんが、「体操教室やフォークダンスに行ったら?」と声掛けするも、母親は動かなかった。友人たちに相談すると、「お父さんを亡くしたショックだろうから、3カ月もすればまた元気を取り戻すのでは?」と言われ、様子を見ていた。
2021年12月。年末に帰省した兄と相談し、早瀬さんは地域包括支援センターに問い合わせ、面談。何となく「母親は認知症ではないか」と思っていた早瀬さんは、母親の世話が大変になっていくことに備え、仕事を休止した。
「母1人の世話はまださほど大変ではありませんでしたが、潔癖で他の人に自分のものを触られたくない息子のものを、母が使ったり触ったりするため、監視が必要なことや、あればあるだけ炊いてしまうので、お米を隠さねばならないこと。母と息子の食事時間や、好みのメニューが全く違うこと。母はゴミの分別ができないので、出す前にいちいち確認して分別し直さなければならないこと。母が勝手に片付けたものがどこにあるかわからず、宝探しのような作業がいつも発生すること。歯磨きを毎日促すことや入れ歯のつけ外し介助などなど、細々したことが積み重なって大変になっている感じでした」
2022年1月。週1回、兄が来てくれるようになる。来ると兄は母親と一緒に過ごし、徒歩圏内にあるスーパーに連れ出すなどしてくれた。
実家から電車で1時間ちょっとのところで暮らし、タクシードライバーを務める兄は、早瀬さんより4歳上だ。マメではないが、細かいことにはこだわらず、おおらかで自由人な兄とのきょうだい仲は、昔から悪くなかった。
そして2月。病院を受診し、母親は認知症と診断。3月には介護認定の面談を受け、4月に要介護1と認定された。