いつでも一人で生きていける経済力を持つことが大切

――40代、50代以上で家事をしない夫を許せない妻はどうすればいいのでしょうか?

椰月美智子『きときと夫婦旅』(双葉社)

【椰月】もっと上、私の母親のような世代はほとんどが専業主婦で、夫のことは我慢するしかないという人が多かったと思うので、私たちとしては、いつでも一人で生きていけるように経済力を身に付けておくことが大切だと思います。やはり、私たちの世代には、稼ぎは男の方が多いからという理由で、「家計にお金を出している夫のほうがえらいんだ」とされてしまう風潮が残っているので、夫に頼らないでもやっていけるようにするのが一番かと。

――夫を変えるより、自分がキャリアアップしたほうが早いということですね。

【椰月】あとは自分の状況を俯瞰ふかんして見ること。目の前で起きているのは自分の世界だけのことだと思えばいいんだなということに最近、気が付きました。誰かと比べなかったら、自分の世界だけで完結しているはずなので、自分の人生に自信を持った方がいい。私は作家なので、中学受験のことも、もちろん子どものためを思って受験したんですけど、結局は自分の小説の題材にもなっています。夫のため、子どものためではなく、あらゆる出来事は全て自分のために起こるべくして起こる。そう思うと、人のせいにすることもなくなり、案外強く生きられるんじゃないかなと思います。

――椰月さんは児童文学の作品でデビューされて、その後、『明日の食卓』のような一般向けの小説を書くようになりました。そのきっかけは、ご自分が結婚、出産、育児を経験したことだったのでしょうか。

※現在発売中の『プレジデントファミリー2022〈秋号〉』では、椰月さんが自身の子育てについて語るインタビューを掲載しています。

【椰月】そうですね。小説を書くときに、自分が知ったことは書かずにはいられないというか、そこは避けて通れないという気持ちでした。『明日の食卓』を書いたときも、母親が子どもに手を上げるとか虐待などのニュースが注目されていたときで、「ひどい母親だ」という意見を多くの人が言っていました。もちろん手を上げるのはいけないけれど、そうしてしまうのはなぜなのか? どうしてそこまで追い込まれてしまったのか? と考えたとき、原因が夫側にあることが多いのではないかと。

大変な思いで、てんてこまいの子育てをしているときに、夫が一緒に寄り添ってくれていたら、虐待なんて起こらないと思うんですよね。本当に母親だけで世話して、ワンオペでいっぱいいっぱいでどうしようもなくなって……というケースがあるのではという考えから書いた小説でした。

『きときと夫婦旅』は、そこからまた時間を経て感じたことを込めました。読む人には、みゆきと範太郎のやり取りにクスッと笑いながら、夫婦とは何かと考えてもらえるとうれしいです。

(構成=小田慶子)
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