ほとんどは「止めてほしい」ではなく「話を聞いてほしい」

大友氏は彼らに対して、特別に呼びかけているわけではない。だが、メールがくればやりとりし、ときには電話で話し、相手が望めば直接会って話を聞く。とはいえ、殺人を考えるほど追い詰められている人間を相手にするのは、生易しいことではない。

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なかには依存体質な人もいて、メールの返信を求められるあまり15時間ほどやりとりが終わらなかったり、大友氏の仕事中にたびたび電話をかけてきて「せっかく必死で相談しているのになんで聞いてくれないんですか」と責められることもあるという。期待通りの返事をしなければ「裏切られた」と受け取られ、音信不通になってしまうことも少なくない。彼らの口からは「死にたい」「殺したい」などの言葉が頻繁に発せられる。内容のほとんどは「止めてほしい」ではなく「話を聞いてほしい」なのだという。

「一歩間違うと刺されるよって言われたこともあります。まあ、もし刺されても自分の判断が間違っていたというだけであって、しょうがないけれど」

大友氏は身長178センチと長身で、恰幅かっぷくもいい。子どもの頃は、相撲部屋の親方からスカウトされたこともあるという。しかしだからといって、刺される可能性を「しょうがない」とはなかなか言えないだろう。いったい何が、大友氏をその行為に向かわせているのか。

第一印象は「真面目でやる気のある青年」

「そういったアプローチをしていくことが、事件の芽を摘める可能性になると思うから。死刑制度の肯定論や廃止論も、犯行に及んじゃうからそういった話になるのであって、極論そういった事件が起こらなければ、議論にはならないじゃないですか。だから実行する前の段階であるなら、積極的にかかわりたい。他人に言えない話だから自分で抱え込んじゃうけど、それを『この人だったら聞いてくれるんじゃないか』って連絡をくれるのはありがたいことだから」

そう思わせるほどに、友人の起こした無差別殺傷事件は、大友氏の人生を大きく揺るがす出来事だったのだろう。

2人の出会いは、2003年に遡る。大友氏が仙台の警備会社で働き始めたとき、約1カ月後に入ってきたのが6歳年下で当時20歳の加藤だった。そのときは、とても真面目でやる気のある青年という印象を持ったと大友氏は語る。

「一番最初に彼と会ったのが、仙台の花火大会の仕事。何十万人という人が出てくる大きいイベントなんですけど、僕は地区隊長みたいな感じで。彼は新人だから『じゃ、そこに立って誘導してください』って説明したら、『逆にこっちよりこっちに立ったほうが、どっちに対しても声をかけやすいから良くないですか?』って提案してくるんです。普通、新人はそんなこと言ってこないんですよ。みんな、『はいはい』って聞き流してやってるだけだから」